…目の前には琉偉がいる。…このまま、電話を続けるわけにはいかない。

「相馬さん、今、ちょっと外にいますので、掛け直してもいいでしょうか?」
『分かりました、お待ちしております』

…なんとか携帯を切った雪は、琉偉を見た。

「…琉偉さん、すみません。急ぎの電話のようなので、降ります」
「…飛天旅館の相馬って・・・確か、飛天の経営者ですよね?」

「…ご存じなんですか?」
「…株主優待で、以前 使わせてもらった旅館だ、覚えてないか?」

・・・・言われてみれば、一度使った事があったか。

「…旅館の社長が、なぜ、白井さんに連絡してくるんだ?」
「…実家が、旅館をしてまして、その繋がりでちょっと」

「…なぁ、この前急に実家に帰ったのは、飛天が関係してるんじゃないか?」
「?!・・・プライベートな事なので、お答えできかねます。すみません、もう降ります」

焦る雪の手を、琉偉が離すわけもなく。

「…1人で、何を抱え込んでる?」
「お願いします。放っておいてください」

「放っておけない!」
「…琉偉さん、私にもう構わないで」

雪は、琉偉の手を振り解くと、車を降りて、部屋の中に入ってしまった。

何も話さない雪。…切羽詰まったあの顔は、1人で何か抱え込んでる顔だった。そんな雪を、琉偉は、どうしても、放っておけなかった。


・・・雪は、部屋の中に入ると、心を落ち着かせ、かかってきた携帯にかけ直した。