その時、俺はだいぶ心が弱ってて
親父さんに思いの丈をぶつけてしまったんだ。
今となって考えると恥ずかし位くらい情けない醜態だったけど
その時は必死だったんだ…


ミカと会わせて…
ミカに会いたい…
ミカを返して…と


そしたら親父さんは
「俺にとってもミカはたった1人の
最愛の娘なんだよ?レイくん…
でもね、気持ちは良く分かったよ!
今日は急遽外務省に戻って来なきゃならなくなって、トンボ帰りなんだ。
今はまだこっちには帰って来られないけど、帰ってきた時にはミカの事
レイくんによろしく頼むよ。
それまでの何年間かは自分自身のために
時間を使いなさい。
ミカの声を聞いたからって
一時の感情で飛行機に乗って会いに来ようとしてはいけないよ。
本当に大切に思うならミカを待ってて
あげて欲しいんだ。
俺はこんな職業だから転勤も多いし
今まで長期出張を断っていた分
任期が来ても継続継続となって
なかなか帰っては来れないだろう…
不本意だけど、もしかしたらミカを1人でこの家に帰す時が来てしまうかもしれない。その時はミカとこの家をよろしく頼みます。
もちろん、強制じゃないよ?
君はまだ若い。気持ちは変わることもある。それは誰も責められる事ではない。
必然なんだ…」

と、俺の目を射抜くように見て
言ったんだ。


美佳の親父さんは外務省に勤めている
外交官なんだ。

ミカの透き通るほど綺麗な瞳は親父さん譲り。オマケにクールで爽やかな印象で顔立ちも申し分ない程に整っている。
スーパーイケメン外交官
橘裕人大使と特集番組が組まれる程なんだ。

そんな親父さんが俺を見る時
我が子同然とでもいうように
いつも優しいものなのに
今は1人の男として対等に扱ってくれた眼差しだった。


その瞳の奥はミカの真剣な瞳の時と
重なって見えた。その目に弱い俺は
黙って首を縦に振った


もちろん、親父さんの真意が
伝わったからってのもある。


するとたちまちまたいつもの
優しい眼差しに戻ると


「この事は俺とレイくんと
男同士の話だから、ミカには
内緒だよ?(笑)
さて、レイくん夕飯に付き合ってくれない?この家には空気の入れ替えに来ただけなんだ。ガスも止めちゃってるから
何か食べに行くんだけど…
1人飯は寂しいからさ〜」


「はい、お付き合いします!」


「そうこなくっちゃ!!
じゃ行こうか…」


この時の親父さんとの約束で
俺はミカのいない辛さを
グッと耐える事が出来たんだ。



てか、俺の愛は海よりも深いんだ!!
心変わりなんか絶対にしない!
いや……いっそ忘れられたらどんなに
楽なんだろうと思う事もある。
それでもミカが頭から離れないんだ。