男は私を抱きしめたまま
少しだけ振り向いて、呆然としている相手の子に言った。


「僕、好きな子いるって言ったよね」

「う、嘘でしょ...」

「ごめんね、アヤちゃん」

「そんな...ッ」


女はグスッと鼻音を立てて、悔しそうに走り去ってしまった。



...こんな形に利用される日が来るとは。


ハァと小さなため息を吐いて、男は私から離れる。

落ち着いて顔を見ると、
爽やかなタイプの美男子...?
モテそうな感じの、いやモテるから襲われていたんだろうけど、そこらでは見ないイケメンだった。


「あ、櫻井さん悪かったね。おかげで何とかなった」

「いえ...てかコッチは無事じゃないんだけど。」

「え?」


私がジッと見つめる視線の先に、男も視線を移した。
その瞬間、ゲッて顔をする。

さっきまで食していたパンが、
急に抱きしめられた衝撃で足元に落ちたのだ。


「うわぁ、ごめん!」