バイクで走って周りが静かなところになってきた。夜だから人通りも少ない。だからよく声も通る。
『…あそこら辺、昼間は平気だけど今、族争いとかしてっから…そういう奴らがいっぱいうろついてんだよ』
凛と通った鷹巳の声もちゃんと聞こえた。
『そうなんだ…知らなかった』
『…いーんだよ、そんなの知らなくて。とにかく俺がいないとき、ここらへ出歩くなよ』
うん…そう頷きながらはっきりと返した。
あたしは案外のんきなのかも…
こんなときなのに、嬉しさの方が断然勝ってる。
『あ…でも鷹巳、なんでそんなこと知ってるの?』
思い出したようにあたしは問い掛けた。
そういえばなんか詳しそうだったよね…不思議…なんでだろ?
ただ沈黙が流れていく。返事は一向に帰ってこない。
聞こえなかったのかな?
そう思った瞬間、潮の香りが鼻を掠めた。
『……………海だ』
鷹巳が呟いて、横を見るとそこには海が広がっていた。