「宛は、あるの?」

先生が聞く。

「1箇所だけなら。」
あの人に。あの紫苑で、お世話になった看護婦さんに。あの時、携帯番号聞いててよかった。
と思い、電話をかける。

プルルルルル。プルルルルル。
カチャ。

『はい。もしもし。』
「あの看護婦さんですか?あの時はお世話になりました。」
『あ、樹音ちゃん?久しぶりねー。どうしたの?』
「あの。親から虐待を受けていて、保健室の先生に『引っ越したほうがいい』って言われて。」
『じゃあ、うちくる?私は、料理できないけど。』
「いいんですか?」
『少しでも力になりたいのよ。』
「ありがとうございます。」
『はーい。勤務時間中だから切るね。じゃあ。』

プチッ!ツーツーツーツー。