気づけば時計は夜の十時をさしていた。

もうこんな時間だったのか。携帯電話を開くと、ママから何件もの着信とメールが入っていた。早く帰ってくるように催促されている。


私はもっとおじいちゃんの側にいてあげたかった。こんなにおじいちゃんの傍にいたい、離れたくないと思ったのは、初めてだった。






おじいちゃんがゆっくりと目を開ける。

苦しさは大分治まったように見える。

私が携帯の画面とおじいちゃんの顔を交互に見てきょろきょろとしていると、おじいちゃんは点滴付きの左手で、おでこの上の私の手をそっとどかした。


おじいちゃんの青みが買った灰色の目が私を見つめる。

その眼は、私にもう帰れといっていた。



ママを心配させてはいけないと。





私はおじいちゃんの手をぎゅっと握り返した。

しわしわの手は意外と大きく、温かみがあった。


私はおじいちゃんの頭をやさしく撫でると、ベッドに背を向けドアへ向かって歩き出した。







病室をあっと一歩で出るというところで、私はちらっと振り返った。



おじいちゃんの顔を見る。

優しい顔。なんてやさしい顔。私を本当に愛してくれている顔だ。私はおじいちゃんに軽く手を振る。




「おじいちゃん、またね。」




おじいちゃんはこくりと頷くと、また笑った。ありがとうといっていた。