だって!

「家と職場そんなに離れてないのに一人暮らしなんかしてるから!しかも家とあたしの大学の間に!」

お兄ちゃんはこの春、この部屋に引っ越したのだ。
二度目の引っ越し。
またもあたしには内緒で。

「あー、それはだな・・・」

突然矛先が変わり、どう答えたものかと目を泳がせている。そんなお兄ちゃんを無視してあたしは続ける。

「帰りが遅くなっちゃったときとか、まっすぐ帰りたくないなーってときにこんな便利なところにお兄ちゃんいたら、寄るでしょ!?夜遅くに一人で帰るより安全でしょ!それに、洋子おばさんにも様子見て来てって言われてるし!」

あたしはビシッ!という効果音が付きそうな勢いでお兄ちゃんを指さし、正しいでしょ!と胸を張った。

「・・・・・・はぁ~・・・」

お兄ちゃんは今日一番の大きなため息をついて、ソファに倒れ込んだ。

それに、と、あたしはお兄ちゃんの目の前に立って言った。

「男だけど、“お兄ちゃん”だもん。」

あたしを見つめ返したお兄ちゃんの目が、いつもと違って真剣みを帯びていてちょっとドキッとした。
あたしは目を逸らしてキッチンに逃げ込み、さっき使ったグラスを洗い始めた。

「・・・お兄ちゃん、かぁ・・・」

お兄ちゃんが困ったように、苦しそうに呟いていた声は本当に小さすぎて、あたしには届かなかった。