くるると別れ、圭介さんとの待ち合わせ場所へ向かう。
なかなか退店できなかった。次はいつ会えるのか、パンの感想も聞かせて欲しい、一緒にお出掛けもしたい、と引き留められて。
沢山おしゃべりしたせいか、少し疲れてしまった。
「圭介さん」
喫茶店に入ると、圭介さんは見つけやすい場所に席を取ってくれていた。
腰を降ろすと、すぐにメニューを開いてくれる。
「ご馳走はできないけど、悪いな」
「いいえ!そんなこと考えてなんか…」
「奢るのはさぁ、やっぱ自分の女だけにしたいんよ」
「考えませんってば」
圭介さんと付き合いたいと思ったことはないけれど、こんなにも明瞭に「俺の女にする気はない」と告げられると、流石に傷ついてしまう。
朝弥が好きだと気付いているくせに。言われなくても私だってそんな気はないわ。
そう言ってしまいたかったが、飲み込んだ。
「パン、ありがとうな。くるるはどうだった?」
「明るくて良い子でした。少し口が悪くて驚いたけど」
「男に対しては、だろ。そうなんだ、男への扱いが冷たいから、男からの評判はすこぶる悪いんだよ」
男性はまとめて汚物だ、と言い切っていた子だ。男性からすれば不名誉極まりない。こちらから願い下げ、と思うのも無理はなかった。
「でも女相手には良い子なんだろ」
「とても。また会いたいと言ってくれて」
「そうか。良かった。分かってるかもしれないけど、この町って若い女は少ないから」
圭介さんは窓からくるるの店の方を眺めた。
「俺のこと何か言ってた?」
「えっ。あ、別に何も」
「嫌いだとか汚物だとか」
「聞いてたんですか?」
「本当に言ってたのか?」
しまった。
ショックだろうと心配になったが、反して圭介さんは愉快そうだった。
私が渡したパンの袋をのぞき込み、頬を緩ませている。