ー客観視ー

抵抗していた腕が、悲痛を浮かべていた表情が、すべて力を失い消えていく。

研究者に押さえつけられた少女はぐったりとその手足を投げ出し、固く閉じられた目はもう研究者の姿を写さない。

それでも、研究者は少女の首を掴む腕の力を抜こうとはしなかった。

それは、過度な警戒心によるもの。

研究者は少女が華月組のスパイとして各地に送り込まれていたことを知っていた。だから、死んだ振りくらいできると確信していた。

本当に死んでいるのか。何者かの侵入を知り、逃げなければと思う一方で、少女への疑心がその手を離すことをためらう。

焦りは感覚を鈍らせる。

そしてまた、それが命取りとなる。

突如、部屋を貫いたのはけたたましい破裂音。そして、研究者の肩から血が舞う。

「ッう゛…」

「……………っはぁ…っげほっげほ」

研究者の手が、少女の首から離れ、肩を押さえる。

その瞬間、少女は激しく咳き込み、喘ぐように息を繋ぐ。

拳銃が、研究者の肩を貫いたのだ。

憎々しげに顔をあげた研究者は、なだれ込むようにやって来た黒色の集団に息を飲む。

そして、侵入してきた黒色の集団の奥、研究者に銃口を向ける男たちが道を開けた先に立つのは5人の男。

1人、1番年配の男に付き従うようにその後ろに続く4人の男たちは、彼らの先頭を歩く男の息子たちだ。