バクバクと心臓が高鳴る。
廊下に響く足音が響き、金属のぶつかり合う音が足音に合わせて鳴る。
鉄格子に背を向けているせいで状況がまるでわからない。ただ、あの足音が酷く怖いと確かに思った。
息を殺すように身を横たえ続ける。
足音が近い。きつく目を閉じ、震える両手を握り合い、抑える。
足音が止まる。私の入っている牢の前だ。
「朱、起きてないの?…………おかしいなぁ。そろそろ起きてると思ったんどけどなぁ」
華月に乗り込んできた研究者だ。
冷や汗が伝う。ただ目を閉じて寝たふりを続けているだけなのに、なぜこんなにも恐怖が襲うのか、自分でもわからない。
「ねぇ、この子起きた?」
「えぇ、先ほど少しだけ。ですが、酷く疲れたような顔ですぐ今のように」
「そう…。まぁ、いっか。時間はたくさんあるからね」
向かい側のご老人の声がする。
嘘をついてくれてる。それは、私を助けるためだ。
会ったばかりなのに、こんなところにいるのに、見ず知らずの私を助けてくれるご老人に心の中で感謝する。