拳銃を向けた巽を攪乱するやり口、そして格闘戦でも巽を翻弄する。

ホームレスと思って甘く見ていたが、コイツは路上での喧嘩に慣れている。

いや、喧嘩というレベルではない。

刑事である巽には分かるのだ。

コイツの使う技は、この技術は…。

「て、てめぇ…」

首を絞め上げられながら、巽は言う。

「その技は、逮捕術だな…」

「!」

指摘された途端、ホームレスは巽から飛び退く。

「やっぱりそうか」

首を押さえながら、巽は立ち上がった。

逮捕術は、司法警察職員、または入国警備官などの法律上は司法警察職員ではないが司法警察職員に準じた職務を行う公務員が、被疑者や現行犯人などを制圧・逮捕・拘束・連行する為の術技の事である。

また、職務を行う者の受傷事故を防ぐ為の護身術としての意義もある。

突き、蹴り、投げ、締め、固め、警棒、警杖、施錠など総合格闘技的な要素を持つが、あくまでも『相手を逮捕する為の技術』であり、格闘技や軍隊格闘術のように抵抗出来なくなるまで打ち倒す事が目的ではない。

犯人に過剰なダメージを与え殺傷すれば事件の捜査や裁判に支障をきたし、人権上の問題も生じる為、打撃は逮捕に必要な最低限となるように指導されている。

そんな逮捕術を、ホームレスが使用するとは…。