「何もしてねえじゃねえだろっ、これを見てみろよっ!」



崩れた足場。


散らばる鉄パイプに、幅木。


隼人の制服は、汚れと埃で真っ白になっている。


額からは、出血も……。



声を荒げる凌空に男たちは顔を見合わて一瞬黙り込んだけど、すぐ口を尖らせた。



「俺たちはただ、ここへ来た度胸を買って、ファイルを返そうとしただけだ」


「ああ。あの最上部にファイルを置いたんだ。取り返したかったら取って来いってな。別に無茶な要求したつもりねえぞ」



見上げるのは、半分崩れた足場。


そばから見上げるととても高く、足を置く幅だって狭い。


そこへ上がるなんて、考えただけでも足がすくんだ。


これのどこが無茶じゃないっていうの……!



「俺がファイルを置いて来たときには平気だったぞ」



ひとりの男がそう言い。



「ボルトがさびて緩んでたんじゃねえの?不慮の事故だろ」


「そうだぞ。訴えんなら、足場を放置した建設会社に言えよっ!」



責任逃れなのか、自分たちには非がないと言い張る。


その間も、ずっと隼人のうめき声は続いていて。



「大丈夫だ、すぐ救急車来るから」


「もうちょっとだよ、我慢してっ……」



痛みに顔を歪める隼人に必死で声を掛ける。