「なんでこれを?」
「り、凌空くんが貸してくれてっ……」
「これは持ち出し禁止になってる、凌空が貸すわけない」
キッパリ断言すると、手塚は唇を噛みしめた。
「手塚が部室から持ってきたのか?」
凌空の彼女として練習に足を運んでいる手塚なら、出来なくもない。
「……っ、うわああっっっ………」
追及され観念したのか、手塚は床にしゃがむと顔を両手で覆って泣き出した。
泣きじゃくる手塚の前で俺も混乱する。
「なあ、これをどうするつもりだったんだよ!」
盗んで手塚が得するのか?
それとも、結良を困らせるために紛失騒ぎを起こしたかったのか?
「どうするつもりなんだ!!」
だからこそ、声が荒くなった。
責任を感じていた結良の顔。練習中、手塚からの差し入れに素直に喜んでいた凌空の顔。
大事なふたりを欺く行為に、ただただ込み上げてくるのは怒りだけ。
手塚はしばらく泣き続けたあと、放心したように顔をあげた。
口元だけに怪しい笑みを浮かべて言う。
「……覚えてない?あたしの幼なじみ」
……幼なじみ?
そういえば、体育祭の時に……。
「桜宮に通ってるんだよ」
「…………」
「ライバル校のレアな情報なんて、喉から手が出る程ほしいよね」
まさか、それを桜宮野球部に……?