「凌空くんがあたしと付き合ったら、少しは結良ちゃんがへこむかなって思ったの」
なんだよ……その身勝手な理由。
そんなことで凌空は利用されたのか?
「凌空は……どうすんだよ……」
手塚の思惑のために付き合わされた凌空の気持ちは。
凌空だって、手塚を好きになろうとはしてたはずだ。
遊びで女とつき合うような奴じゃない。
手塚は再び俺の腰に手を回すと囁いた。
「矢澤くんだって、気付いてるんでしょ?」
その言葉は、怪しげに耳を震わせる。
「凌空くんが、本当は誰を好きか───」
「やめろって!」
再び手塚を押し戻す。
わかってんだよわかってんだよ!!!
そんなこと他人に言われたくない。
大きく体を払った反動で、机がガタッと動き、その上から手塚のサブバッグが落ちた。
目で追うと、そこから黄色い表紙のノートが半分すべり出たのが見えた。
「これは……」
見覚えのあるノート。
無意識に手が伸びて。
「っ、ダメッ……!!」
それより先に手塚が拾い上げ、バッグに押し込み隠すように胸に抱えるけど。
咄嗟に青ざめたその顔に、イヤな予感が脳裏をかすめた。
「それ、なに」
「……っ」
冷静に問いかけると、手塚は眉を寄せて、落ち着きなく瞳を動かしながらも黙秘を貫く。
「野球部のスコアブックだろ」
「やっ……」
確信した俺は、それを無理矢理奪い取り中身を確認した。
やっぱり。
スコアブック1冊が入っていた。
だが、表に書かれた記録期間を見ると、無くなったと聞いていたのとは別のものだ。