少し撮影隊から離れた場所にその人はいた。黒髪の清潔そうな、長身のイケメン。スーツがとっても似合っているけれど、海辺ではあまりにもそぐわないうえに暑くはないんだろうか。


「ずいぶん到着が遅いんですね」

「俺の担当は、玲奈だけではないと言っているだろう」


 はあっとため息が漏れる。そうだよ。あたしの人気がもっとあったら、専属のマネージャーか付くことになるけれど、あたしはまだグラビアでは駆け出しのひょっこだ。この敏腕マネージャーは他に3人の担当をしていて、途中から合流予定だったけれど、もう撮影はあと1日しかない。いくらなんでも遅くないのかな。

 それもこれも、あたしがひょっこで他に抱えている子があたしより売れているからでしかない。


「どうだカメラマンとは上手くやれているのか? 」

「何の問題もないですー。礼治さんは大人で格好いいのにとっても紳士なんですー」

「まあ、前評判どおりってことだな。ここから見せてもらったが、雰囲気もよかった」


 なんのかんの言っても、このマネージャーがやり手なのは確かで写真集なら絶対カメラマンは礼治さん! と言って譲らなかったあたしに礼治さんとの仕事を取り付けてくれたスゴい人ではある。


「そうですよ。礼治さんはスゴイ人なんです」


 でもね、だから頭が上がらない分嫌みっぽくなってしまう。あたしはまだこの世界できちんと立てていないから。風があたしとマネージャーの間を吹き抜けていくのも、お互いの温度差を感じてしまう。


 背後から誰かが走ってくる気配がしてすぐに、目の前に壁が現れた。


「彼女に何か用ですか」



 壁から声がして、はじめてそれが結輝さんだとわかった。なんだかとても険悪な雰囲気だ……


「それが初対面の相手に対するあなたの対応ですか」

「相手にもよります。あなたが彼女の撮影を見ていたのを知っています。彼女に用があるなら、俺を通してからにしてください」



 慌てて後ろから結輝さんのシャツを引っ張る。これは勘違いをしているんだ、早く止めないと。


「結輝さん」

「…何も言わなくていいから」