親の期待に添えなかったあたしは、ブランドものの服やバックを買ってもらうというような甘えかたが出来なくなっていた。

有名私立に通う由奈は、付き合いでコンサートに行ったり、ブランドの買い物に出掛けたりといそがしい。それでいて、品行方正、眉目秀麗、文武両道など両親だけでなく教師やまわりの大人にも受けがいい。

「モデルになるなら、事務所と契約するのが近道だよ。ウォーキングや面接の講義もある」

注目を集めてしまったためか、あたしに対する質問が長い。

「家の方針なので、変えられません」

眼鏡を掛けた男性が苦笑いを浮かべて、隣の女性を見る。きっとあたしは、頑固で可愛げのない子に見られているんだろう。

こんなびしょ濡れで面接を受けなくても、順番をずらしてもらえば良かったんだ。恥ずかしくなって正面の男性から隣の女性に視線を逸らす。

……目の端に見覚えのあるロイヤルブルーを見つけて、思わず息を呑んだ。顔を上げるとあのトイレであたしを励ましてくれた人が、優しい顔をしてあたしを見ていた。