ビタンと大きな音がして、みんなの注目があたしに集まっているのがわかった。
なんとか手をついたから、顔は打っていないけれど、コンクリートの固い床に体を打ち付けて痛い。

開いているドアの正面だったから、面接官にも転んだことが見えているはず…

立ち上がったあたしは、濡れている服のままお辞儀をして部屋に入った。

「遅れてすみません。50番、柏崎玲奈です」

もういいや

そんな諦めの気持ちがなかった訳じゃない。あまりのことにパニックを通り越して冷静になっていた。

自分に出来ることをするしかない。びしよ濡れで情なくても俯かないでいよう。

「どのような理由でこのオーディションを選びましたか? 」

次々に答えている声がする。「御社のブランドが好きだからです」「新しいブランドに興味があります」みんなとてもしっかり答えていて、どの子もカワイイ。


あたしの番がきて、あたしは素直に「モデルになりたいからです」と答えた。

「モデルなら、どこでもいいととれるね」

「頑張っていっぱいオーディションを受けてきました。でもずっと落ちてばかりで、どうしたらいいのかわかりません」

「モデル事務所に所属していないようだね。これはどうして? 」

「オーディションに受かってもいないのに、必要ないと言われたからです」

おねーちゃんの由奈は、名門私立に通っているから、あたしにまでお金が回ってこないのが、本当の理由だ。あたしもお受験したけれど、小学部中等部ともに落ちてしまった。