「おじいちゃんが、もう危ないの……今日は学校はいいから、すぐタクシー呼んで病院に来なさい……最後に会いたいでしょう?」

「…………うん」


 うっすらと明るくなってきた外とは反対に、家のなかはどんよりと薄暗さを増していくようだった。

 電話を切って、すぐにタクシーを呼ぶ。早朝だとか関係なくすぐ来てもらえるとこ。それからおねーちゃんを起こして、すぐ家を出た。



 一分も一秒も無駄にできない状況だってある。しなくちゃいけないことで、体は動くけれど、心のほうは動いていなくて、どう反応していいのかまだわからない。

 緊張と不安で心臓はドクドク脈打っていて、血液は身体じゅうをどんどん流れて頭にだって送られているはずなのに、何をどうしたらいいのか考えることが出来ない。胸が押し潰されそうに苦しい。


 朝焼けで雲が真っ赤に染まるのがタクシーの窓から見える。


 いつもいつも、こんなに血の色みたいに真っ赤なんだろうか。空も血を流すほど悲しいことや苦しいことがあるんだろうか?


 隣に座ったおねーちゃんはぎゅつと目を閉じていて、手が白くなるくらい握りしめられていた。