一人っ子で身内を無くしている俺には、親戚と呼べる付き合いなどないし、身内である嫁さんも精神的に不安定でそんな場を仕切ることなんて出来ないだろう。

 もしもについて考えておくことは、彼女の負担を減らすためにも必要だ。


「………遺書とか、本当に必要なのか? 」

「可能性のあることについては準備したいんだ」


 押し黙り考える熊に、必要以上の負担を掛けていることもわかっていた。それでも他に頼るすべのない俺のことを見捨てはしない。

 たとえどんなに悪口を言ったとしても、心配したとしても、最後にはこちらの願うようにしてくれるだろう。


「俺の知り合いに同じ病気の奴がいたけど、やっぱり遺書を書いてたよ。俺のはその受け売り」


 ため息をついた熊は、ペンで手術の保証人の欄を埋めていく。さっきまでカンファレンスで渡された資料に見入っていたのだ。

 少しばかり雑な絵と手書きの文字の書かれたそれはパソコンで術式やら検査結果だのの数値の書き込まれたものの裏で、医者の説明がなかったらよくわからない。