なら、なんで婚姻を結んでいるのかと言えば、彼女とは確かに愛し合って結婚したからで、その後に起こった出来事で心が傷ついてしまったから。

 会うことすら出来なくても、彼女を心の支えにしなくては自分も生きてこれなかった。経済的に支えながら、月に一度花を贈り、誕生日とクリスマスにはプレゼントも贈る。



 大切にしたいと願った相手を幸せに出来なかった苦しみは、未だに心を蝕んでいる。


 だから、些細な自分の都合で彼女の心の平安を乱すことなんてしたくなかったし、変わりなく生活して欲しかった。


「本当にいいのか、それで」

「遺書ならキチンと日付と署名もしたし、判子も押したよ」

「遺書とか……マジか」


 がしがしと頭を掻いている熊の苦悩が伝わってきて、申し訳なくなる。他に信用出来る奴なんかいないのだ。

 学生時代から、コイツが一番口が固くて信頼出来る。


「何かあってからじゃ遅いんだよ。もし死んだらお前が葬式してくんない? 」

「………バカやろう」