1、永久の終わりと始まり
その日は、特に何の変化も見られないごく普通の日だった。と思う。
朝起きて、歯を磨いて顔を洗って、朝御飯食べて家を出る。今年の春から通い始めた高校へ行って、授業を受けて、終わったら帰る。帰ったら次の授業の予習とか、ちょっと読書したりとか。
そんな何の面白味もない日常を送っていた私、及川飛黎(おいかわ あすれ)は今現在、ピンチに陥っている。
目の前に広がる広大な草原。
澄んだ青空に綿菓子みたいにふわふわと浮かぶ雲。
見渡す限り、それ以外何もない世界。
「え、何で…?」
落ち着こう。
まず、どうしてこうなった?
学校から帰って、次の授業の予習をしていた。それから、お風呂に入って、晩御飯食べて、先日買った本を読んでた。
それから…
「それから…えっと……えっと…」
眉間に皺を寄せ、顎に手を当てて考えてみる。
「何したんだっけ…」
…結果。思い出せなかった。
いや待ってほしい。聞いてほしい。
急な展開に一番困ってるのは私の方なの。
お願いだから誰か私を見つけて。
なんでこうなったの?此処はどこなの?
次々に浮かぶ疑問と、膨らんでくる不安。
どうしてこうなった?
この一言に尽きる現状。
「せめて時間だけでも分かればなぁ…」
ぽつりとこぼれた言葉は独り言のつもりだった。
だからまさか、返答が返ってくるなんて思いもしなかった。
「時間が知りたいのかい?」
…………沈黙。
「え?……誰?」
声の聞こえた方に顔を向けると、そこに居たのは黒猫だった。
透明感のある琥珀色の瞳に艶やかな黒毛。
金色の首輪を付けた、見るからに豪邸で飼われているかのような、気品さ漂う猫だった。
「えっと…」
予想だにしなかった動物の登場で若干たじろぐ私。
ていうかその前に猫が喋った?
馬鹿みたい。そんな事あり得るわけないじゃない。
……とは分かっていても目の前の黒猫以外、私の他に居るものはいない。
喋ったの?てか君喋れるの?
え?猫じゃないの?猫だよね?黒猫さんだよね?
色々と聞きたいことがあるが、何だろう。
この目の前にいる猫に喋りかける事を躊躇う自分がいる。
そしてそれは多分、相手が未知の生物かも知れないからとか、そういう理由じゃないと思う。
そう。喋りかけたくない理由は至極単純でいて、この場においては最も必要のない感情。
(………猫に話し掛けるとか変人かよ…)
私は自分でも自負出来るほどの現実主義者だ。きっとこの状況も何か科学的な事象が偶然重なって生まれた1つの現象か何かだろう。
じゃなきゃ目の前の猫が喋るなんて事に納得出来ない。
いやそもそも猫が本当に喋ったのか?
そもそもこれは夢なんじゃないのか?
読書をしてる最中につい眠ってしまうのはよくあることだし。
目の前に自分以外の生き物がいると分かったからか、最初よりもやや冷静さを取り戻してきはしたが、現地は何1つ変わってはいない。
「…夢なら早く覚めてよ……」
口の中で小さく呟いた希望の言葉は呆気なく打ち消された。
「これは夢じゃないよ。この世界は姫が作り出した現実だよ」
再び口を開いた猫。
その猫は普通では考えられない表情をしていた。
「姫って…」
「姫は君だよ。君がこの世界を作ったんだ。僕は君を支える者、黒猫だよ」
理解不能な言葉をスラスラと並べる黒猫は琥珀の目を細め、三日月の様に微笑んだ。
「ようこそお姫様。永久の楽園へ」
正直何言ってるかさっぱりで、全然分からない。
(何だろう…分からないけど、私には分かる…)
でも、心の何処かで確信に近い何かが生まれた。
(きっと…もう帰れない…)
それは姫が無意識に己に呪文をかけた瞬間だった。
その日は、特に何の変化も見られないごく普通の日だった。と思う。
朝起きて、歯を磨いて顔を洗って、朝御飯食べて家を出る。今年の春から通い始めた高校へ行って、授業を受けて、終わったら帰る。帰ったら次の授業の予習とか、ちょっと読書したりとか。
そんな何の面白味もない日常を送っていた私、及川飛黎(おいかわ あすれ)は今現在、ピンチに陥っている。
目の前に広がる広大な草原。
澄んだ青空に綿菓子みたいにふわふわと浮かぶ雲。
見渡す限り、それ以外何もない世界。
「え、何で…?」
落ち着こう。
まず、どうしてこうなった?
学校から帰って、次の授業の予習をしていた。それから、お風呂に入って、晩御飯食べて、先日買った本を読んでた。
それから…
「それから…えっと……えっと…」
眉間に皺を寄せ、顎に手を当てて考えてみる。
「何したんだっけ…」
…結果。思い出せなかった。
いや待ってほしい。聞いてほしい。
急な展開に一番困ってるのは私の方なの。
お願いだから誰か私を見つけて。
なんでこうなったの?此処はどこなの?
次々に浮かぶ疑問と、膨らんでくる不安。
どうしてこうなった?
この一言に尽きる現状。
「せめて時間だけでも分かればなぁ…」
ぽつりとこぼれた言葉は独り言のつもりだった。
だからまさか、返答が返ってくるなんて思いもしなかった。
「時間が知りたいのかい?」
…………沈黙。
「え?……誰?」
声の聞こえた方に顔を向けると、そこに居たのは黒猫だった。
透明感のある琥珀色の瞳に艶やかな黒毛。
金色の首輪を付けた、見るからに豪邸で飼われているかのような、気品さ漂う猫だった。
「えっと…」
予想だにしなかった動物の登場で若干たじろぐ私。
ていうかその前に猫が喋った?
馬鹿みたい。そんな事あり得るわけないじゃない。
……とは分かっていても目の前の黒猫以外、私の他に居るものはいない。
喋ったの?てか君喋れるの?
え?猫じゃないの?猫だよね?黒猫さんだよね?
色々と聞きたいことがあるが、何だろう。
この目の前にいる猫に喋りかける事を躊躇う自分がいる。
そしてそれは多分、相手が未知の生物かも知れないからとか、そういう理由じゃないと思う。
そう。喋りかけたくない理由は至極単純でいて、この場においては最も必要のない感情。
(………猫に話し掛けるとか変人かよ…)
私は自分でも自負出来るほどの現実主義者だ。きっとこの状況も何か科学的な事象が偶然重なって生まれた1つの現象か何かだろう。
じゃなきゃ目の前の猫が喋るなんて事に納得出来ない。
いやそもそも猫が本当に喋ったのか?
そもそもこれは夢なんじゃないのか?
読書をしてる最中につい眠ってしまうのはよくあることだし。
目の前に自分以外の生き物がいると分かったからか、最初よりもやや冷静さを取り戻してきはしたが、現地は何1つ変わってはいない。
「…夢なら早く覚めてよ……」
口の中で小さく呟いた希望の言葉は呆気なく打ち消された。
「これは夢じゃないよ。この世界は姫が作り出した現実だよ」
再び口を開いた猫。
その猫は普通では考えられない表情をしていた。
「姫って…」
「姫は君だよ。君がこの世界を作ったんだ。僕は君を支える者、黒猫だよ」
理解不能な言葉をスラスラと並べる黒猫は琥珀の目を細め、三日月の様に微笑んだ。
「ようこそお姫様。永久の楽園へ」
正直何言ってるかさっぱりで、全然分からない。
(何だろう…分からないけど、私には分かる…)
でも、心の何処かで確信に近い何かが生まれた。
(きっと…もう帰れない…)
それは姫が無意識に己に呪文をかけた瞬間だった。