今、目の前にいるのは誰だろう。
私は心の底からそう思った。
気持ちばかりのお化粧…少しだけ巻かれ、背中に流れる金の髪…そしてニットのワンピース。ピアスは水色に色づく水晶。安物なのがわかるけど雫の形がなんだか可愛くてつい衝動買いしてしまったものだ。
目の前の女、否、鏡に映る私は、好きな男の人にデートに誘われて張り切る女にしか見えない。まるっきりミレイの趣味じゃない服装だし。
どうしよう、浮かれて張り切ってるのがわかる感じになっちゃった…。かなり気合が入ってるように見える。我ながらなんて恥ずかしい。
どうしよう。いつものようにセーターとパンツにしようか。でもせっかく陛下とお茶な訳だし…たまにはワンピースも悪くないよね?
けどやっぱり違和感しかない。
「へ、陛下!」
覚悟を決めた私は部屋から飛び出して、陛下に駆け寄った。
「この格好、女の子らしすぎるよね!?私がワンピースって変だよね?私、なんかすごく張り切ってるように見えない?どうしよう!」
陛下の服の裾を引っ張り、何度も何度も揺らす。
陛下は怪訝そうに私を見てる。おそらく反応に困っているのだろう。
私もなんて言って欲しいのかは分からない。
「…ミレイとは趣向が違「そ、そうだよね!…着替えてくる。たぶん私服っぽいワンピースがあったはずで…」」
陛下の口から飛び出たのはなんとなく聴きたくない言葉。ついつい陛下の言葉を遮ってしまった私は、自分がすべてを言い終える前にクローゼットに向かおうとした。けれど私の腕を陛下が掴む。そしてくるりと向きを変えられ、私は陛下と向き合った。
陛下の手は私の頬へと伸び、思いっきり横に引っ張った。
「痛い…いや、痛くないですけど…」
「人の話を最後まで聴け。俺はミレイではなくお前を外に誘ったんだ。ミレイの趣向でないといけない訳がないだろう」
「でも…張り切りすぎな気がしない?」
「むしろ控えめ過ぎるくらいだ。…似合ってるが…」
「……本当に、陛下ですか?」
今日の、正確にはお昼からの陛下はなんだかおかしい。今までなら言わなかったことを言って、私の反応を見ているように見える。
「何が言いたい?」
「何かあるの?さっきから私の反応を確認してない?」
「…そうだな。らしくないな」
陛下は納得したように小さく頷いた。
やっぱりよくわからない。陛下には思うところがあるのだろうけど、こちらとしては釈然としない。
「そうですよ?さっきから変ですよ?」
「そうだな。おかしかったな」
ここで私は陛下が言わんとしてることに気づいた。すぐに陛下の服の袖をギュッと掴む。
「けど苺タルトは食べに行きましょう?」
陛下は小さく苦笑いを浮かべた。