君の歌がこんなふうに澄んでいること、今まで気づけやしなかった。
正直、告白されて付き合ったのは顔が好みだったからで、特に関わったことないクラスメートだったし。デビューしてないバンドに興味もなかったから、ライブに誘われてもうまくかわして断っていた。
でも、だからって彼女を差し置いて他の女の子を誘われたのは何だか嫌だった。そりゃ、断るあたしが良くなかったけど。
とにかく、そんな理由で、この狭いライブハウスにも来たわけだ。チケットは(佐久真がチケット代を払ってくれたから)無料だし、1回くらいなら見てやろうって。大層な上から目線もあって。
佐久真冬和(さくま とわ)がバンドのボーカルなんて、まるでイメージができなくて。悪いけど、下手の横好きだろうなって思ってた。今流行りのバンドのボーカルみたいな髪型はしてたけど。
それら全部、間違いだったことに、始まってすぐに気づかされた。君の声が、こんなにも透明だったなんて。澄んだものだったたなんて。
──まして、心にまで響いてくるものだなんて。
何も知らなかった。あたし、一応彼女なのに。