「お母さんは私が小さい頃に病気で亡くなったのよ…」
波の音にかき消されそうな、小さく、弱々しい声だった
俺は何も言わなかった…いや、何も言えなかった…大杉もそうだ。
大杉の父親はポケットからタバコを取り出し、火を点けずに口にくわえた
「沙貴ちゃん…確かに君はお父さんにそう聞かされたんだろう。でもそれは嘘だったんだ…」
「何で!?何で嘘なんかついたのよ!?」
水橋さんは感情的に声を荒げた…声は波の音をかき消した。
「それは…わからない…」
「………。」
沈黙に波の音が重なり、遠くから微かに聞こえるパトカーのサイレン音が、重い空気をさらに演出した
「………。」
「あ、あの…ちょっと…」
重い空気を打破すべく、俺はビビりながらも話しを切り出した
「あぁ月見くん…すまないね…君を巻き込んでしまって。どうしたんだい?気分でも悪いのかい?」
大杉の父親が申し訳なさそうに俺の顔色を伺う
「いや…そんなんじゃなくて…水橋さんのお母さんは今、何処にいるのかな?って…」
「そのこと何だか…私も詳しくは知らないんだ。竜ちゃんからは何も聞いていないからな…」
「じゃあ水橋さんは、お母さんに会えないんですか?」
「いや、一つだけ手掛かりがある。あそこに行ってみれば会えるかもしれん。」
「ど、何処ですか!?」
水橋さんも内心とても気になるのだろう。少し落ち着きのない様子だ
「世界中の同性愛者が集まる町…東京、新宿2丁目にレズビアンの集る店がある。」
「店の名前はわからないんですか!?」
「確か…『パピヨン様のレズビア~ンでトレビア~ン』だったと思うんだが…」
(デジャブ!?)