「私はこの町で生まれ、この町で育った…私は竜ちゃんと友達だった。たった一人の親友だった…」
大杉の父親は、波の音しかしない暗い海を見つめながら、淡々と話しを続けた
「仲は良かった。学生時代はケンカもよくしたよ。でも社会人になると竜ちゃんと会う時間はなくなった。それでもお互い幸せだったんだ。竜ちゃんも私も結婚して子どもがいたからだ。」
大杉の父親は照れくさそうに水橋さんと自分の息子に目をやる
「しかし幸せはずっと続かない…人生は大きな振り子のようなものだ。大きな幸せの反動は、大きな不幸を呼び寄せたのかもしれない。竜ちゃんの妻でもあり沙貴ちゃんのお母さん…水橋幸子が、竜ちゃんを変えたんだ。」
『水橋幸子』という名前に水橋さんは動揺を隠せないでいた
「お、お母さんのことは…関係ないわ!!」
「君のお母さんは、竜ちゃんが酒やギャンブルに溺れていった一番の原因…。そして沙貴ちゃん…君も変わってしまったのかもしれないな。母親の『死』に耐えられず…」
水橋さんは涙をこらえながら、黙って大杉の父親をにらみつける
「君に伝えなければいけないこと…それは私の言葉ではない。君のお父さんの遺言だ。」
「竜ちゃんはヤクザに狙われている身…いつ死んでもおかしくない。と冗談半分でよく言っていた。」
「ちょうど一週間前、竜ちゃんから電話が掛かってきた…。もし自分が死んだら娘に伝えて欲しいことがある。と…まるで自分が死ぬことをわかっているようだった…」
「沙貴ちゃん…聞きたいかい?いや、聞く準備はできてるかい…?」
「………。」
水橋さんは黙って首を縦に振った
「君のお父さんはこう言ったんだ…」
『沙貴…すまない。お父さんは最低のお父さんだ…父親として何もしてやれなくて…本当にすまない。』
『心から』
『愛している』
『そして…』
『お母さんは生きている』