キョウヤに名前を呼ばれても腕を引かれても何にも答えない私に、やっぱりキョウヤは辛そうな顔をする。




そんな私からビチョビチョになった鞄を取るとそれを自分の肩にかけて、反対の手で私を引き寄せた。





引き寄せられただやられるがままに歩く私を、キョウヤはどう思っているんだろう。





歩いた少し先には以前乗った黒いフルスモークの車、その前には傘をさしたチヒロさんが立っている。





「チヒロ、上着貸せ」




後部座席を開けるチヒロさんにキョウヤがいつもより強い口調で話す。





「…ナオちゃん」





すれ違った時に聞こえたチヒロさんの言葉に返す事は出来なかったけど、心配そうに見つめるその瞳をただ私は見返す事しか出来なかった。