さっきよりも顔が熱い。
武富君に見られているだけで、なんだか落ち着かなかった。
たとえるなら、全身の毛穴から汗が吹き出す感じ。
「俺に言ってる?」
「えっと……う、うん」
困惑顔の武富君に、力強く頷いてみせる。
窓から入って来た春の風が、武富君の黒髪をフワッと揺らした。
ネクタイをピシッと締めて、ブレザーを綺麗に着こなしている武富君。
ピンと背筋が伸びてて、すごくカッコ良い。
こんなにまともに見るのは、同じクラスになって初めてかもしれない。
ううっ、照れるよ。
「オススメ、か。赤田 太郎先生の推理小説は全部オススメだよ。中でもシャム猫ホームズシリーズは、初心者でも読みやすいんじゃないかな」
いきなり聞いたにも関わらず、武富君は真剣に考えて答えてくれた。
私のために……。
ヤバい、嬉しい。
「シャ、シャム猫ホームズだね……!わかった」
「あ、でも推理もの苦手じゃない?」
「ううん!全然っ!むしろ好きだよ」
「そっか、ならよかった。図書室にあるから、借りて読むといいよ」
「うん!ありがとう」
大きく頷くと、武富君は満足そうにフッと笑って小説に視線を戻した。
「咲彩が小説読むとか、マジ笑えるんだけど」
ケラケラ笑う虎ちゃんも今は気にならない。