それからというもの。
俺らは、すんなり仲良くなった。
七瀬さんの友達の、後藤茉香ちゃんと
俺の友達の、綾瀬 航希も一緒だけどな。
航希は、たぶん七瀬さんが好きだってすぐ分かった。
七瀬さんには、茉香ちゃんが好きって言ってたけど、その時の顔が。
嘘をついている顔だった。
その時
正直、応援は出来なかった。
この感情はなんだろうって
ずっと思ってたら
いつの間にか、七瀬さんは消えていた。
今日は俺が日直だったから、遅くまで残り書類整理など、面倒くさい仕事を無理やりやらされた。
もう1人は、今日は休み。
担任は手伝うとか言いながら、途中早退した七瀬さんに電話するって言ったきり、帰ってこないから、職員室いったっけ…。
『もう帰りましたよ?』
などと言われた。
仕方なく、暗くなるまでに終わらせようと思ったけど…。
「暗くなっちまった」
今日は…いい日じゃなかったな。
今日も…家に帰ったら1人か…。
ったく。
ばばぁはいつ帰ってくんだか。
料理すんのも疲れたわ。
ご飯考えるのも面倒くさいし。
お金はかかるしー。
あーもう。
料理がうまい彼女欲しい。
なんてうまい話。
そんな感じの事を思うと…
いつも七瀬さんの顔が浮かんでくる。
なんでだ?
そしたら…。
聞き覚えがある声が聞こえた。
「やめて!」
夜に必死で否定してるってことは…
誰か危ないな。
でも、わざわざ知らない人の事助けて顔見られたら困るし。
余計に女いたら、もっと困るし。
まぁ、行ってみるだけいいか。
そう思いながら、近づくにつれて。
なぜか、胸の心拍数が高まっていった。
嫌な予感がする。
「きゃーっーー!」
えっ
「愛莉!?」
七瀬さんだ!
「山崎くん!!」
七瀬さんなら…バレてもいいって
思ったのは…なんでだろう。
だめだ!
今はそんなこと思ってる暇はない!
君の声が
聞こえたから
俺は
君を助けに行けるよ。
待ってて
勝ってみせる。
愛莉side
「愛莉!!」
そう叫んで、こっちに来てくれたのは…
「山崎君!!!」
山崎くんだった。
「おまえらな、ふざけんなよ。
女が離せって言ってんだから離せよ
だから、彼女出来てもすぐ別れんだよ
ヤリたいしか思ってねぇーんだろ?
自業自得だよな
バカしか言えねぇーよ」
「はぁっ?」
怖い怖い怖い怖い。
山崎君が…嘘みたいに怖い。
これは…殴り合いになるかもしれない。
その時私は…
山崎君を見ていて周りを見ていなかった。
当然 、冷静に考えればわかるよ。
他の人が私を引っ張れば、何の問題もない。
「来い!」
「っ!」
これ以上…
山崎君に迷惑かける事は…
絶対しない。
「はやく!来いよ!!」
あーもう!
あんまり大きい声出すと…
山崎君にバレちゃうじゃない!
泣かない。
泣かない。
我慢するんだ。
迷惑はかけないって自分で決めたんだから。
「ったく」
「えっ」
私…やっぱり…ダメ女だ。
そう思ったら、涙が止まらなくて。
「…」
あの時。
私を連れて逃げてくれたのは、山崎君だった。
その後…にぃちゃんが来て、あの不良を怒ってくれた。
今、私と山崎君は公園にいる。
「……」
どっちも沈黙。
な、何を話せば…。
「迷惑…かけてごめんね」
謝ることが最初だよね。
ごめんなさい。
「あのさ…」
「……」
ドキンッーー
ドキンッーー
ドキンッーー
この胸の高鳴りは…なに?
こんなの…
まるで…山崎君に恋したみたいじゃん…。
そう考えたら
一気に顔が赤くなるのがわかった。
「七瀬さん…」
「えっ」
急に名前を呼ばれたと思ったら、山崎君が私を抱きしめてきた。
「やまっ…やまざ…き…」
今の私は何が起きてるのかさっぱりだ。
「無事で…ほんっとに…良かった…」
「っ……山崎……くん…」
なんでこの人は…こんなに優しいんだろう。
「ふぇぇ、やまざきっくん。うぅ。」
「なんだよっ」
その後、5分くらい山崎君に慰めてもらった。
「やっと泣き止んだか」
「山崎ぐんのぜいだもん」
「はいはい、ほら」
そう言われて、ハンカチを渡される。
「やまざぎぐーん」
「おいおい、もっと泣くのかよ…」
面倒くさい女かもしれないけど…
この感情は…
きっと
山崎君にだけ特別な感情なんだ。
「そうだ!お礼じゃないかもしれないけど、うちの家でご飯食べってよ!」
「え?」
まるっきり、お礼じゃないね。
「いいのか?」
「いいの!いいの!弟の世話しなきゃいけないかもしれないけど…それでもいいなら!
ご飯は、私が作るし!」
せめて、ゆっくりしててってもらいたいな。
「ありがとう」
「こちらこそ、ありがと!!」
それから私たちは、帰り道。
ずっと一緒だった。
逸れないように手だって繋いだ。
その度に、ドキドキして。
これが何なのか…私はまだ知らない。
愛莉side
「さっ!あがって!」
「おじゃまします」
と、言ったものの。
にぃちゃんは警察署。
明花は保育園。
晃翔は……またコンビニか?それかまだ…部活帰り?
「だれも…いない様子だけど…」
「そっ…そう…だね」
まぁ、そんなときもあるよね!
「ご飯作るね!」
「あ、待って」
と言われ、私は山崎君をじっと見た。
目が合う
わずか、3秒
顔が赤くなる。
ばかっ!わたし!
「俺の家も近いんだけど…」
「そうなの!?
……じゃ、じゃあ、今日は帰っちゃう?」
えっ。
私何、泊まってくれる感じで意識しての!?
ばぁーか!!
「えっと…泊まってもらう…つもりだったのかな?」
「あ、あの……えっと、ま、まぁ。しょっ…正直言うと…そ、そうです……
…ごごご、ごめんなさい!」
わぁ〜〜めっちゃくちゃ恥ずかしい!
「っ…」
恐る恐る目を開ける。
目の前には、耳まで真っ赤な宮崎君が立っていた。
熱でも出たのかな…
えっ!熱!?
「山崎君!」
「はいっ」
私が急に呼んだから、びっくりしたのか声が裏返った山崎君。
「熱あるの!?」
そう言いながら、山崎君の額を触る。
「ちょっ、七瀬!」
「辛かったなら辛いって…言ってくれればいいのに。」
「えっ、まっ」
「ごめんね…気づいてあげられなくて」
「あ、あの…」
私の耳にはもう、山崎君の声など聞こえていない。
妄想の世界に入ってしまえば、もうそこで終わり。
「七瀬、落ち着け」
そう言われて、また抱きしめられてしまった。
「山崎君?」
「熱ねぇーから、心配しなくていい。
それと…今日、泊まらせてください」
「えっ熱なかったの…というより…」
えーっと…
泊まらせてください…?
山崎君が私の家に泊まる…。
悪くない!
「うん!いいに決まってる!
家近いなら、一緒に取りに行こ!」
その気になれば、やる気は出る!
「えっ。取りに行くのは俺1人でいいよ。待ってて」
そう言われたので…。
今家で待っています。