ぽとっ……。
彼女の瞳から大粒の涙が溢れては零れていく。
その様子に僕は冷静さを失ってしまった。
「あっ、いきなりで迷惑でしたよね? ごめんなさい。困らせるつもりじゃなくて……ごめんなさい。あ、あの――ごめんなさい」
「さ、三回も謝らないでください……!」
弾むような声。
その声に驚きながらよくよく彼女の表情を見ていると、満開の桜も色鮮やかな紅葉も劣るほど美しい満面の笑みだった。
「う、嬉しいんです。嬉しくて、泣いているんです――だって、私、茶道しか取り柄がなかったから……」
懐をしきりに触っている。何かを探している……のだろうか?
そこで僕は、ハンカチを探しているのだと直感する。
「これ、使ってください」
僕のポケットから綺麗に四つ折りにされたハンカチタオルを取り出して渡した。
それを会釈して受け取る彼女。
頭が上下する動きに合わせて長い黒髪が後を追うように胸元にさらりと流れる。
やはり動作一つを取っても、とても美しい――。
「ありがとう、京介さん――今日のことは一生の思い出になる……」
「そんな大げさな」
僕は思わず笑ってみせる。
けれどそんな僕とは裏腹に彼女の表情はだんだんと曇っていった。
「私、来月には京都に引っ越すの。茶道を真剣にやっていきたいから……」
「き、京都へ?」
突然のことに、崖から落とされたような感覚に陥り、目の前は真っ暗になった。