「のどが渇いているなら、最初からそう言ってくれれば良かったのに」


 思っていたよりフレンドリーな大和撫子――利香さんは、何故か僕をさらに人通りの少ない、小さく古びた校舎へと連れて行く。


「でも、本当にただでお茶が飲める……んですか?」


 ようやく気持ちも落ち着いた僕。冷静になってみると案外気楽に話せるものだな、と安心しながら彼女の歩幅に合わせるようにゆっくりと歩いていた。


「はい。昨日、私の点てたお抹茶を、美味しい……そう言ってくれたあなたになら、何杯でも」


「きっ、聞こえていたんですか?」


 心のなかで美味しいって言ったと思っていたのだが……どうやら口にしていたようだった。


 くすりと笑って見せる利香さん。
 その笑みに僕の心は洗い流されるようだった。


「あっ、ところで、あなたのお名前は?」


 利香さんは急に立ち止まると、ひどく慌てたように尋ねてきた。


「そうでした、自己紹介がまだでしたね……。僕は、京介、って言います。日比野京介、一年六組です」


「私は天海利香です。一年二組です。よろしくお願いしますね……あ、はい、到着ですよ」


 彼女の本名を教えてもらえたことで思わず有頂天になっていたが、どうやらその間に目的地に着いたようだった。

 そして僕が連れて来られたのは茶道部の部室だった。