「…とりあえず急ごう。」
昴は央登が去っていった後にそう呟き、また準備を始める。
そして、準備をし終えた昴は、誰もいない静かな家をそっと出ていく。
少し寂しそうな、けれど怒りも含まれているような複雑な表情で自分の家を見つめる昴。
だが、その表情はすぐに消え歩き出す。
昴が出ていった後の家の中は、静寂が包みこんでいた。
――――
――――――
"おはよー"
"おはよう"
昴は遅刻しないように、小走りで通学路を進んでいく。
そして、昴の周りで交わされる朝の挨拶。
だが、昴に声を掛ける者は誰一人としていない。
――別に…いつもの事じゃん…。
昴はその光景を、少し寂しそうな瞳で見つめていた。
そう、彼にとってそれはいつもの光景。
だが、昴の脳裏には、昨日の水野とのやりとりが蘇っていた。
『今からダチになればいいじゃねぇの?』
水野のその言葉は、昴にとって、本当に心の支えとなるくらいに嬉しい言葉だった。
だからこそ、不安だったのだ。
今日、水野に会って、昨日の事は"嘘だ"と、からかわれていたらどうしようか、と。
もしそんな事になれば、昴はきっと立ち直れないだろう。
昴の頭の中を、その事だけがぐるぐると回っていた。