そして次に女でない事に安堵する。どうやら癖は無くなってはいないものの、悪化したというわけではないようだ。
男を連れ帰りはしたが、致すところまでいかなかったという事だろう。微妙な進歩に、先ほどの誇らしさは失せる。
「おはよう、ナオミ。よく眠れた?」
爽やかにそんなことを言ってくる男を奈緒美はまじまじと見つめる。
スラリとした、けれど肉付きのいい長身と長い脚は、奈緒美の客にはいないタイプだった。
というより、こういう、日々に満足してそうな幸せそうな男は奈緒美の店に出入りはしない。
鳶色の瞳と、カールがかったブルネットの短髪が微かに知性を漂わせていた。それに、男のくせに、簡単なものだが料理をしていたらしいところを見ると、どうやら育ちも良さそうだった。
「何か飲む?と言っても冷蔵庫にはジンジャーエールしかなかったけど」
そう言ってトースト片手に、さらに片手で瓶を二本掴んだ男は、奈緒美のいる場所、ローテーブルのところへ、悠々と歩いてきた。
はい、と蓋の開いた瓶を渡されて、奈緒美は無意識にそれを飲んでいた。習慣って怖い。
ってそうじゃなくて。
「ごめん、あなただれ?」
奈緒美の問いかけに、男は一瞬きょとんとして、次に眉を顰めた。不機嫌そうな表情に、奈緒美の体は強張る。
しかし、すぐそれに気付いた男は、違うんだ、と言って今度は眉を下げた。
眉で随分とものを語る男である。
そう思うと、奈緒美は思わず吹き出してしまった。
さっきまで少し怖いと思っていたのに、何故かこの男を警戒し続けることが出来なかった。
いきなり笑い出した奈緒美に、男は今度は右眉を上げる。奈緒美は堪えきれず、喉で笑うだけに抑えていたものを、声に出して笑ってしまった。