なぜか懐かしい男の夢を見て、目が覚めると頭が酷く痛かった。
内側から直接神経に響くような痛み。しばらくぶりだったが、忘れる筈もない、二日酔いの感覚だった。
重い目を凝らしてみれば、よく見慣れたベッドルームの天井である。住み始めた時からついていた茶色いシミが、白い壁紙に浮いていた。
昨日の夜の記憶がなかった。
いつも通り出勤し、身なりを整えて。
それ以降を思い出そうとする前に、頭がツキリと痛み、喉が酷く渇いていることに気付いた。
一昔前なら、これに合わせて妙な怠さを感じたものだったが、今朝はそれがない。
その事が、僅かな誇らしさと同時に、奈緒美に妙な虚しさを与える。我ながら、いつまでも女々しく引きずるものだと奈緒美は呆れた。
ベッドルームから離れて、キッチンに向かっていると、とても香ばしい匂いがして、不審に思う。火事だろうか。
いや、それにしては不穏な感じのない、どちらかといえば平和で、幸せな、家庭の匂い。
癖が抜けたと先ほどは思ったが、もしかしたら男ではなく女を連れ帰ったという事なのか。
だとすれば、節操がなさすぎて、癖はむしろ悪化していると言える。
恐る恐るキッチンとつながるリビングに出たところで、その正体を知った。
ローテーブルの上に並べられる一組のサラダとハムエッグ。
チン、と音がしたのでキッチンを見れば、何やら大柄な男が、そこから一枚のトーストを片手に顔を出した。
誰だこいつ。
まず、頭の中で例のワープロを開いて探るが、全く覚えのない顔だった。客ではないらしい、とここで一先ず安堵する。
客に家を知られては、気の休まるところは殆どなくなってしまう。