どうしようと狼狽えているうちに、頭の中にその男の情報が浮かんだ。パソコンにデータを記録することはもしもの時にこうして思い出せるから重宝していたが、この場合は思い出さずともよかったものを。出来れば忘れていたかったものだ。自分の頭を恨めしく思いながら、じっと金髪男の様子を伺う。
アレン・オースティン、年齢21。若いが親が金持ちのボンボンで、金銭感覚が狂っているため常に羽振りがいい。週2で訪れてチップも弾んでくれる。性格、我儘、自分勝手、利己的、個人主義。セックスでの性格、とてもねちっこい。おそらく嫉妬深く、対応は要注意。
ああ、とうんざりする。こうまでして警戒していたというのに、昨日の自分はかなり軽率だった。というか、根本を辿れば、あのクソ中年親父に行き着く。誰が痕を残していいと言った。
けれど、ここでずっとこうしていることも出来ないし、アレンは奈緒美の得意客である。オーナーは出禁にすると言っていたが、結局金を積まれればあの女店主はころっと態度を変えそうだ。家が見つかったのはしくじったが、追っ払えばいい。せいぜい次回のねちっこさが増すだけだろう。そう気にすることでもあるまい。我ながら、貞操観念の低さに呆れる、と奈緒美は自嘲した。
ならばせめてご機嫌を取らなければ。奈緒美は観念して、両手に買い物袋を提げながら、金髪男に近づいた。そしてさも今気づいたというように話しかける。
「あら?アレン?」
顔を上げたアレンの眼は予想外に鋭かった。人でも殺してきたかのような顔つきで奈緒美を見遣る。目鼻立ちのくっきりした外国人の凄みはそういえばこんなに怖かったのかと、奈緒美の背筋は凍った。
ここで奈緒美はふっと思い出した。自分が何故あんなやけ酒をしたのか。この男が一体何をしたのか。