奈緒美は今週食べる分の食糧を揃え、店を出た。一人分とはいえそれなりに嵩張る量を買ってしまった。両手に一つずつ。何よりシリアルが場所をとる。重さのあって、保存の効く飲み物や油などの調味料は通販サイトで定期購入していたが、野菜なども生協のような宅配システムを探したほうがいいのかもしれない。
帰路につき、途中いつもの犬に吠えられて肩身の狭い想いをしながら歩いていると、ブロックの終わりの曲がり角に来た。ここを曲がると、すぐに奈緒美のアパートメントが構えている。
そして何事もなく曲がろうと体を捻ると、目の端に見覚えのある髪色が映った。まさか、と嫌な予感がして慌てて引き返し、角から自分の家を伺い見る。予感は当たっていた。奈緒美の家、69番のドアの前に若い金髪の男がどかりと腰掛けてタバコをふかしていたのだ。
顔が引きつるのを感じて、筋肉から力を抜く。無表情になるためには表情筋を緩めて、一緒に息を吐くのが一番いい、とはこれまた例の先輩の言葉だ。昔の記憶がポツポツと蘇る。これは全て白米のせいで大柄な男のせいで昨日の自分のせいで、回りまわってあの金髪男のせいだった。
あの男こそ、奈緒美が昨晩やけ酒をするに至る出来事を引き起こした張本人である。