気付けば奈緒美の悪癖は独り歩きしていた。

奈緒美が一般に言う和風美人であったことも原因の一つとなったのだろうが、時に寝た男の元カノとやらがやってきて奈緒美を罵り、時に勘違いをした軽そうな男たちが奈緒美を誘ったり、ということが多発した。

奈緒美は大したことではないと思っていた上に、むしろその責め苦を甘んじて受けるべきであろうと思うくらいの常識は持っていた。

それでも、やめられないことはやめられない。
勿論美味い酒の所為だ。


しかしある日、同じサークルのある男が、それは駄目だと、もっとちゃんと自分を大事にしろと、お節介を働いてきたのだった。

彼曰く、
「そういうのはちゃんと好きな人とやるべきだ」
という。

奈緒美もそれは当たり前だろうと理解していた。

実際、男の部屋に縺れ込む時はその男を好きだったに違いなく、その証拠として朝の男たちは全て奈緒美の好みの部分を持っていた。

それは目だったり、唇だったり、鎖骨のラインだったりと外見上の好みだけではあるのだったが。


きっと怪訝な顔をしてしまったのだと思う。

奈緒美のその顔を見て、彼は一瞬口をつぐみ、けれど意を決した様な強い目で、奈緒美に言ったのだった。

ずっと好きだった。付き合ってくれ。

驚きはなかった。
このタイミングか、とそれだけだった。

彼はなかなか見目のいい奈緒美好みの男である。
そして、この男が熱を持った目で自分を見つめていたのは知っていた。

けれど、決して朝の男とならなかったから、きっとそうなんだろうなと思っていた。自惚れなどではなく、数々の浮名を流すマドンナ的存在と化した自分の本命になりたいのだと。そして、案の定、である。

見目のいい彼は、サークル内で女子人気の高い男のうちの1人だった。清潔な爽やかさを纏っている上に、話も面白く、時折こちらを気遣う余裕もみせる。

迷うことはなかった。すぐにいいよ、と返し、奈緒美はその男、橘譲治との交際を始めたのだった。