少し昔の話をしようと思う。
奈緒美がまだ、日本にいた頃の話だ。
あの時の奈緒美はまだ何も知らずに、純粋に夢を追いかけていた。
諦観気味な性格だったのは当時から変わらなかったが、実家から離れて一人暮らしをして、英文科で有名な東京の大学に通っていた奈緒美には、毎日が輝いて見えた。
夢に一歩近づけた筈だと強く思っていたし、田舎の方からでてきた者にとって、都会暮らしには魅力がいっぱい詰まっていた。その魅力に知らず取り付かれてしまうほど。
定番化した講義後のサークル飲み会で、奈緒美は酔い潰れた。
ほとんど飲みサーと化している国際交流のサークル。
活動内容を読んで、張り切って入会したはいいものの、国際交流と銘打って、海外の酒を飲み比べたり、海外のつまみを食べ比べたり、要するにただの宴会サークルなのだとすぐに気がついた。
しかし二十歳になって酒を飲み始め、酒の魅力に取り憑かれたといってもいい程、酒好きと化した奈緒美は、酔い潰れる事が多かった。弱い方ではなかったが、そう慢心したせいか、かなり飲み過ぎてしまうようだった。
気付けば見知らぬ天井が見えて、隣に裸の男が眠っていた。
ああ、と奈緒美は目を伏せる。
またやってしまった。
高校時代を女子校で過ごした奈緒美は、貞操観念が低かった。いや、同じ大学に通っている元同級生はそんな事は無いようだったから、奈緒美だけのことなのかもしれない。
とにかく、奈緒美は酔い潰れる度に、いつも違う男と、朝、顔を合わせた。知っている人だったり、全く知らない人だったり。
直したい癖だし、直すべきだとも思っていたが、そもそもそこに至るまでの状況を覚えていない。
飲み過ぎなければいいだろうと、その朝に巡り合う度に思うが、しかし無意味であった。
酒は美味い。
それだけで奈緒美の決意を曲げられる威力をそれは持っていたのだった。