嵐のような男だった。
奈緒美は久々の米をフォークで掬いながら食べる。
非常に食べ辛い。
スプーンの方が良かったかもしれない。冷凍焼けしかけの白米は美味しくはなかったが、懐かしい食感に、感覚が狂いそうになる。
なんて男だ。
知らぬ間に現れて、奈緒美を知らず、ーー奈緒美本人さえ気付かずーーかき回してさっさと去っていく。
薄い唇でされた可愛らしいバードキスは、明らかに知り合い、そして友人以上の甘さが混じっていた。
あの男が来なければ、奈緒美はトーストを食べて何事もなく買い物に出かけていたというのに。
狂いそうになる感覚を戻そうと頭の中は混乱状態だった。
けれど、と頭の隅で微かに思う。
また、来てくれないかな。
また、あの擬似的な幸せ空間を味わうのもいいかもしれない。