逃げずに見物を続けていた客達が再度ざわめき出した。
「あいつのせいでオアシスが?」
「砂漠の国への復讐のつもりか?」



 キャプテンは特に声を張り上げるでもなく、ロゼルにだけ聞こえていればいいというように言葉を続ける。

「わしはただ、風の吹くままに流されていただけだった。
 このコートに帆のように砂漠の風を受け、風に逆らう気力もないまま、舵の壊れた船のようにな……。
 地図もコンパスも何もなく、昼の日差しを避けて夜の闇をさ迷い、明かりに吸い寄せられてオアシスの町へ着けども、敵国なので長居もできずに夜のうちに立ち去る。
 ただそれだけだ……」

「・・・わざとじゃないのはわかっている。
 ・・・わざとなら100年で3件は少なすぎる。
 ・・・貴方を責めるつもりはない。
 ・・・まずはここのオアシスから離れて、後のことは神官と相談を。
 ・・・必要なら葬式も・・・」



 周囲の客がまたざわめいた。
「おいおい、そんなあっさり許すつもりかよ!?」
「俺達の仲間の町がやられたってんだろ!?」
「復讐だ!! 復讐をするべきだ!!」



 キャプテンの顔が再びグニャリとした。
 今度は蜃気楼のように神秘的にではなく、ただ醜く、そしてゆがんだままのその形を留める。

「復讐か。良い響きだ」
「・・・おい」
「そもそも砂漠の国の脅威さえなければ、王女が嫌々政略結婚をさせられることもなかったのだ!」
「・・・待て。・・・何の話だ?」

「ザワージュ号を迎えに行く!!
 そしてともに砂漠の国に復讐をするのだ!!」

 そう言い残し、キャプテンの姿は幽霊らしくスッと掻き消えた。



「・・・!」
「お人好しめ。これからどうする?」
 イステラーハがロゼルの肩をたたいた。

「・・・こっちが本業なんで」
 ロゼルは腰の剣を示した。