「若いの、傭兵かい?
 砂漠の国なんかに仕えるのはやめておきな。
 あいつらロクなモンじゃねえ」

 キャプテンの言葉に酒場の客が殺気立つのを、戻ってきたイステラーハが素早くなだめる。
 なかなか人望があるのだなと思いつつ、ロゼルはキャプテンに向き直った。

「・・・オアシスの真水が一夜にして海水に変わるという事件が起きている」

「砂漠の奴らが好きそうな与太話だな」

「・・・この100年で3件。
 ・・・いずれも実際の話だと確認した」

「ほう?」

「・・・砂漠の真ん中で幽霊船を見たという人が居る」

「何だ、急に話を変えるな」

「・・・オアシスが海水になる直前に、その幽霊船が目撃されている」

「ふむ。不思議な話だな」

 ロゼルはハープティーを一口すすった。

「・・・貴方の船について訊きたい。
 ・・・ザワージュ号のことだ」

「あれは良い船だ。
 美しい船だった……」

「・・・その船で海辺の王子と群島の王女の結婚式が行われていた」

「政略結婚だ。
 悲しい式だった。
 王女は密かに泣いていた」



 他の客が笑い出した。

「おい、聞いたか?
 ザワージュ号だってよ!」

「100年も前に沈んだ船じゃねーか!
 何で見てきたみたいに語ってるんだよ?」

「ギャハハハハッ」

「ハハ……は……は!?」

 笑い声が悲鳴に変わった。
 キャプテンの、初老なだけで100歳を過ぎているとは思えぬ顔が、蜃気楼のようにグニャグニャとゆがんだ。

 客が逃げ出し、マスターはポカンと口を開けている。

 この男が幽霊だと知っていたのはロゼルとイステラーハの二人だけ。
 ロゼルの事前調査に寄れば、キャプテン自身も自分が死んだと気づいていないはずだった。