海に面した砂漠があり、浜辺から見える距離に群島がある。
雲一つない大空から容赦一つなく照りつける日差しに、石造りの都の遺跡が白く映える。
潮のにおいを濃厚にはらんだ強い風が、ロゼルの赤い髪と白い服を乱す。
遠い昔に海辺の王国を支えた港の跡に立ち、二十歳になるかならないかの流れ者の剣士は、群島の中にポツンと建つ、これも滅びた王城を眺めた。
建築技術に差があったのか、海辺の国の王城は、ずいぶん昔に崩れてしまった。
風は群島の国の方角から来て、海岸の国を吹き抜けて、砂漠の国の時の彼方へと消えていく。
風によって削られていく二つの国の家々の壁は、背後に広がる砂漠の一部に……果てしない砂の海のほんの一部になってゆく。
遠い昔、この地域には三つの国があった。
海辺の王国、群島の王国、砂漠の王国。
それぞれに立派な名前がついていたはず。
文献に残された文字を思い出そうとし、砂を避けて風上に背を向けたロゼルの目に、馴染みの銀髪の少女の姿が入った。
氷の巨人を意味する名を持つ、氷魔法の使い手のスリサズだ。
彼女もロゼルと同様に、砂漠の民の真似をして、日光を遮る白い布を身にまとっていた。
(・・・あいつは滅びた国の名前なんかいちいち覚えたりしないんだろうな)
そう思うとロゼルもロゼルで何だか馬鹿らしい気持ちになってしまった。
海辺の王国と砂漠の王国の戦争で、防風林の手入れをする人間が死んでしまったせいで砂漠が広がり、戦争中に逃げていた人達が戦争が終わって戻ろうとしても、とても住めない状態になっていた。
群島の王国も、砂漠の王国との戦争に破れた後は、魔物の巣になっているとも海賊のアジトにされているとも云われている。
どちらも町として立て直すには大きな力が……大勢の人の力が必要だが、それは今回のロゼル達、たった二人の冒険者には関係のない話だった。
ロゼルとスリサズ。
広い世界をそれぞれの道で旅していても、同業の冒険者ゆえに仕事がぶつかることは少なくないが、しかし今回は異なる依頼で同じ場所に居た。
スリサズが受けた依頼の内容は、先祖の宝を探してほしいというもの。
ロゼルを雇った依頼人の願いは、オアシスの危機を救ってほしいというもの。
にも拘わらずスリサズは言う。
「アンタと共闘なんて気に入らないけど」
「・・・ああ」
ロゼルの一言は、どこからどこまでの“ああ”なのか。
共闘に対して“ああ”なのか、気に入らないという部分への“ああ”なのか。
気に留める様子もなければ“けど”で止めた言葉を続ける気配もないまま、それでも通じたと感じたのだろう、スリサズはロゼルにクルリと背を向けて砂漠の方へと歩き出した。
雲一つない大空から容赦一つなく照りつける日差しに、石造りの都の遺跡が白く映える。
潮のにおいを濃厚にはらんだ強い風が、ロゼルの赤い髪と白い服を乱す。
遠い昔に海辺の王国を支えた港の跡に立ち、二十歳になるかならないかの流れ者の剣士は、群島の中にポツンと建つ、これも滅びた王城を眺めた。
建築技術に差があったのか、海辺の国の王城は、ずいぶん昔に崩れてしまった。
風は群島の国の方角から来て、海岸の国を吹き抜けて、砂漠の国の時の彼方へと消えていく。
風によって削られていく二つの国の家々の壁は、背後に広がる砂漠の一部に……果てしない砂の海のほんの一部になってゆく。
遠い昔、この地域には三つの国があった。
海辺の王国、群島の王国、砂漠の王国。
それぞれに立派な名前がついていたはず。
文献に残された文字を思い出そうとし、砂を避けて風上に背を向けたロゼルの目に、馴染みの銀髪の少女の姿が入った。
氷の巨人を意味する名を持つ、氷魔法の使い手のスリサズだ。
彼女もロゼルと同様に、砂漠の民の真似をして、日光を遮る白い布を身にまとっていた。
(・・・あいつは滅びた国の名前なんかいちいち覚えたりしないんだろうな)
そう思うとロゼルもロゼルで何だか馬鹿らしい気持ちになってしまった。
海辺の王国と砂漠の王国の戦争で、防風林の手入れをする人間が死んでしまったせいで砂漠が広がり、戦争中に逃げていた人達が戦争が終わって戻ろうとしても、とても住めない状態になっていた。
群島の王国も、砂漠の王国との戦争に破れた後は、魔物の巣になっているとも海賊のアジトにされているとも云われている。
どちらも町として立て直すには大きな力が……大勢の人の力が必要だが、それは今回のロゼル達、たった二人の冒険者には関係のない話だった。
ロゼルとスリサズ。
広い世界をそれぞれの道で旅していても、同業の冒険者ゆえに仕事がぶつかることは少なくないが、しかし今回は異なる依頼で同じ場所に居た。
スリサズが受けた依頼の内容は、先祖の宝を探してほしいというもの。
ロゼルを雇った依頼人の願いは、オアシスの危機を救ってほしいというもの。
にも拘わらずスリサズは言う。
「アンタと共闘なんて気に入らないけど」
「・・・ああ」
ロゼルの一言は、どこからどこまでの“ああ”なのか。
共闘に対して“ああ”なのか、気に入らないという部分への“ああ”なのか。
気に留める様子もなければ“けど”で止めた言葉を続ける気配もないまま、それでも通じたと感じたのだろう、スリサズはロゼルにクルリと背を向けて砂漠の方へと歩き出した。