サッカー王子に溺愛されます



「…たしかに言ったよ……玲の“振ってください”という言葉にこたえられないって」



「え…?」



「やっぱり玲には遠回しに言ってもダメだな」




すこし体を離して顔を覗き込んできた翔くんの表情は




「…好きだよ、玲。傷つけてごめん」




私のだいすきな表情だった。



───す、き…?



翔くんが私のこと好きって言った?




目をパチパチさせて現状を飲み込む。



夢…じゃないよね。


だってついさっきまで振られた気分になってたのに。




「…また、付き合ってくれる?」




翔くんにそんなこと言われてるなんて、びっくりしすぎで思考回路停止中。





真っ白になる頭を必死に働かせ、翔くんの言葉の意味を整理する。




“ごめん”


“俺…玲の気持ちにはこたえられない”




うん、そう言われたから、私はクラスメイトとしてよろしくと言おうとした。



そしたら翔くんが




“玲の振ってください。という言葉にこたえられないって”



“…好きだよ、玲”




そう言ったんだよね?




「玲?大丈夫?」




私の頬に触れる翔くんの手は、夢じゃないって証明するような手の温かさ。



今起きてることが現実ってわかるとじわっと視界が歪み




「…っ…しょ、う…くんっ」




ポロポロとたくさんの涙が零れおちた。




「…泣き虫」




翔くんの長い指が涙を拭う。






「…夢、じゃないよね?」



「夢じゃないよ」




翔くんの強い返事に自然と笑顔になった気がする。




「だいすき…翔くん」



「俺も」



「…もう、別れるなんて言わないでね」



「言わないよ…。玲が俺のそばにいなかったら、俺が耐えられないから」




翔くんにぎゅっと抱きつくと温かい腕が回ってくる。


つい数時間前までは翔くんに避けられてるって落ち込んでたのに。


翔くんのおかげですっかり嬉しくて、世界がキラキラしているように思える。



久しぶりの翔くんの温もりににやにやしつつ、私はやっぱり翔くんのことがだいすきなんだなあって実感して


それがくすぐったくて、翔くんにばれないように笑った。






「…そういえば」



「ん?どうした?」



「翔くんって理数科の先輩とお付き合いしてたんじゃないの?」




翔くんに抱きしめてもらって数分。


やっと涙もおさまって、すこし冷静になれた私は気になったことがあったのを思い出した。



それはこの前、中庭で女の子たちが話してたこと。




「理数科の先輩…?……あ、あれか」




翔くんとまた付き合うことができたけど、ちゃんと聞かないとモヤモヤしたままだもんね。




「…私、その話聞きたい」



「しっかり話すよ…。あのとき、サッカー対決で“わざと”負けた理由もね」




私の目をまっすぐに見つめて翔くんが話し始めたのは




「昼休みのこと…?」



「うん」




サッカー対決のすこし前くらいからあった、翔くんの不可解な昼休みの行動についてだった。





──────
───




「じゃあ…昼休みは毎日その先輩のところに?」



「うん。黙っててごめんね」




翔くんの話した内容は、1ヶ月くらい前に告白された先輩にずっと付きまとわれていたということ。


だから昼休みに教室にいなかった。



それに、和くんが見たっていうのはこのときのことだよね。




「でも行かなくても別に大丈夫じゃなかったの?」




ずっと気になってたことがわかってホッとすると出てくる新たな疑問。


翔くんは話してるときに“めんどくさい”と言ってたから無理に付き合わされてたんだと思うのから、行かないという道もあったはずなのに。





「それは、先輩が行かなかったら教室まで来るって言って」



「教室まで?」



「うん。そしたら玲、絶対勘違いするでしょ?」





そりゃ勘違いすると思うけど。


それに私だけじゃなくてクラスのみんなも勘違いしちゃうしね。




「めんどくさいことになるのはいやだったし…なにより、玲を不安にさせたくなかったから」




翔くんが隠してくれたのは私のためってしっかりわかったけどね、翔くん。




「すこしでもいいから相談してほしかった…」




そしたらこんなことにならなかったかもしれない。




「ごめん…玲を傷つけないようにするのに必死で」




抱きしめられているから翔くんの表情は見えないけど




「…ありがと」




きっと本当に申し訳ないって顔をしてるんだろうなあとって想像がつく。





翔くんにバレないようにふふっと笑って




「じゃあ…どうして“わざと”負けたのか話してくれる?」



「ん、話すよ」




翔くんにいちばん聞きたかったことを尋ねる。




「その前にひとつ聞いていい?」



「なあに?」



「玲はさ、俺がわざと外したってわかってた?」




でもその前に翔くんからの質問。




「…知ってたよ」




私は翔くんがわざと外したことなんてすぐにわかった。




「どうして?」




どうしてって…翔くんはシュートするときに必ずすることがあるから。




それは───




「だってあのとき私を見なかったでしょ?」




翔くんは大切なシュートを決めるときに必ず、私を見て、ニコッと爽やかな笑みを見せるの。



どんな試合でも必ず私を見つけて、私に合図するかのように笑う。





でも、それがサッカー対決のときにはなかったから



「…気づいてたんだね」



「へへっすごいでしょ?」



「さすが玲だよ」




そのときはすごく悲しくて、なんで?ってずっと思ってた。




「じゃあ教えてくれる?」



「もちろん」




だから聞き終えたときはびっくりしたの。


全部、私のためだったことに。




「それじゃあ…翔くんが冷たくなったのは…」



「玲に嫌われるため」




翔くんの話をまとめると、翔くんに付きまとっていた先輩は翔くんと和くんの話を聞いていた。


その話は自分にも都合がいいと考えて、翔くんに負けないと私にいじめをすると言った。


翔くんは私がいじめられるのが嫌だからとわざと負けた。





本当に翔くんって




「ばかっ」




全部ひとりで抱えこんで、ひとりで解決しようとしていた。




「嫌いになれるわけないじゃん…」




翔くんがサッカー対決のすこし前から冷たくなったのはそのせい。


私に翔くんを嫌いにさせて、和くんのところへ行きやすいようにするため。




「…ごめん」




いつも私のことをいちばんに考えてくれるのは、翔くんも…和くんも同じ。


でも、それよりも大切なことはあるでしょ?




「…自分の気持ちを大切にしなきゃ」




自分が幸せじゃなかったら意味がなくて、他人の幸せを願う前に自分が幸せにならないといけない。


そうじゃないと、相手の気持ちも見えなくなってくる。