敦美は七橋とランチをすませると、そろそろ寮に直弥が迎えにくるので帰ることにした。

「先生、いっぱいたかってしまってすみません。
洋服も靴もお昼までごちそうになっちゃって・・・ありがとうございました。

私、寮にもどったら早速着替えますね。」


「なぁ・・・入り口で待ってるから見せてくれないかな。」


「えっ?」


「見る権利はあると思うんだが・・・。」


「あ・・・そ、そうですね。
じゃ、もどったらすぐに着替えてきますね。」


「おお。」


敦美は女子寮の部屋にもどると、慌てて買ってもらった服に着替えて、靴もはきかえて寮の入り口まで飛び出していった。

入り口まで行くと、七橋がスーツ姿の男と話をしていた。


「あ・・・直弥兄様・・・。」


「いいタイミングだな。
さっき兄ちゃん着いたばっかりだ。
すごくよく似合ってるよ。

じゃ、俺はこれで・・・。楽しんで来いよ。」


「あ、先生!私・・・。」


「敦美、どうしたんだ?
かなりめかしこんでるんだな。」


「めかしこんでるわけじゃないけど・・・先生に買ってもらった服と靴だから。」


「えっ・・・先生って、今の男は学校の先生だろ?
どうして敦美が服や靴を買ってもらうんだ?
まさか、不倫とか。
そんなの、許さないぞ!」


「ち、違うの。理由を言うと長くなるんだけど・・・これは前からの約束だったから。
あ、ちゃんと説明するから、落ち着いて!」


敦美は直弥と少し歩いて、直弥が待たせてあった車に乗り込んだ。


「仕事でこっちへきたから、車もな・・・とりあえず、俺の泊まってるホテルでお茶でもしようか。
さっきの話も詳しくしてもらうからな。」


「わ、わかったから・・・あはは、ふぅ。
あ、でも、直弥兄様が仕事が忙しいのにわざわざこっちに来たのは私に何か用事があるってことなの?」


「ああ、察しがいいな。
その方がこっちも助かる。」


「な、何?」


直弥はそそくさとホテルの最上階まで上がると、ルームサービスを頼んだ。


「喫茶店へ行くんじゃないの?」


「ああ、他人に聞かれたくないことだからな。」


「何なの?」


「じつは・・・来月、俺は結婚することになった。」


「え・・・そ、そうなんだ・・・。その報告だったの。
ママたちも知ってるんだよね。」


「いや、知ってるのは父さんだけだ。
結婚っていっても政略結婚っていったらいいのかな。

父さんの会社のことを俺が引き継いだのは知ってるよな。」


「ええ。」


「それが、長年、会社で父さんも俺も信用していた父子が、うちの会社を裏切ってライバル会社へヘッドハンティングされた。
そして、かなりの情報を持っていかれてしまって、会社が傾いてしまったんだ。」


「そ、そんな・・・。」


「でも、助けてくれる企業もあってね。事情を理解して資金の都合をつけてくれて・・・こっちとしてはかなりの覚悟はしてたけど、ほぼ以前と同じ状況で仕事ができる状況にしてくれて、よかったんだけど、そこの社長には息子がいなくてね。

だからそこの娘さんと・・・俺が結婚することになってしまった。」