そして、敦美はとあるブティックで年相応なかわいらしいワンピースを選んだ。

店の店員が、とても清楚でお嬢様のお出かけに最適だと褒めたたえ、お兄様も目をほそめていらっしゃる・・・と言った言葉に敦美は驚いた。


「先生が兄様と間違えられたんだ・・・。」


「いいじゃないか、あっちが勝手に思い込んでることだしな。
俺としてはもっと大人っぽくてもいいかと思ってたけど・・・確かに、君はかわいい方が似合うな。
お兄さんの見立ては大正解だな。」



そして服に合わせた靴も七橋に買ってもらった敦美は思わず、謝っていた。


「こんなに買ってもらうなんて、すみません。
予算オーバーですよね。もう、ほんとに何もいりません・・・ごめんなさい。」


「おいおい、俺は自分が嫌なら先に、そのへんで勘弁してくれって言える男だぞ。
敦美のうれしそうな顔見てると、俺も楽しくて、俺がいいと思って買っただけだ。
謝らなくていい。

その服を着て靴をはいて、お兄さんに会いにいけばいいだろ。」


「先生・・・あの、今、私のこと・・・敦美って。」


「へっ?あっ・・・ごめん。学校じゃないから兄貴面してみただけだって。
べつに、高瀬に俺のことを名前で呼んでくれとか言ってないし。」


「先生って名前なんていうんですか?」


「おいおい、自己紹介は最初にしたはずなんだけどなぁ。
七橋享祐だ。キョウスケって言ってみろ。」


「えーーー!きょ、きょうすけ。
すみません!!」


「うん、悪くないな。帰るまでずっと享祐って呼べ。
俺も敦美って呼ぶことにする。」


「そ、そんなぁ。何の罰ゲームなんですかぁ?」


「いいだろう?その方がデートっぽいじゃないか。」


「や、やだ・・・うそっ。
どう見たって、私は妹にしか見られませんって。」


「誰がどう見ようが関係ないだろ。
精神修養だと思って、享祐って呼べ。
いいな、敦美。」


「そんなぁ・・・。
だいたい私のこと敦美って呼ぶのは、直弥兄様だけなのに。」


「あれ?じゃ、もう一人の兄ちゃんは何て呼んでたんだ?」


「冬弥兄様はあっちゃんとか、あつみちゃんとか、ちゃんをいつもつけてくれてたから。」


「ふぅん・・・でお父さんは?」


「お父様からはほとんど呼ばれたことなくて。
敦美とは呼ばれますけど、めったに・・・名前は呼ばれません。」


「呼ばない?ってそれじゃお母さんは淋しがってるんじゃないか?
お母さんはお父さんに名前を呼ばれたいだろう?」


「お母さんはいつも名前で呼ばれてますよ。
おいとかおまえとは言わないです。ちゃんと万須美って。」


「敦美って呼ぶのは上の兄ちゃんだけか・・・それはさびしいかもな。」


「いえ、いいんです。直弥兄様は最初はとっても冷たい人だと思ってたけど、ほんとはすっごくあったかい人だってわかったから。
わかりあってからはずっと敦美って・・・私とってもうれしくて。」