卵焼きを敦美が沢井の口に入れようとはしで卵焼きをはさんで動かしたところを、七橋が一口で食べてしまった。


「うまっ!」


「せ、先生!!どうして・・・さっきまであっちにいたんじゃ?」


「2人が何をしゃべってるのかなってきてみたら、おいしそうだったから、ついな・・・。
わるい沢井・・・高瀬の卵焼きはうまかった。」


「いえ、先生は手が不自由だし、おにぎりだけじゃ足りないでしょうから、僕もおかずを少しあげますよ。」


「ほんとか?高瀬、君の会食案はすごいな。
俺は腹いっぱいになりそうだ。」


「あは・・・ははは。」


「先生、もし卵焼きとか気に入ったら明日、先生の分も作ってきましょうか?」


「高瀬・・・でも、朝忙しいだろう?」


「1つが2つになってもそんなに手間じゃないですよ。」


「でも、申し訳ないし・・・。」


「いいじゃないですか。先生が高瀬のお弁当を食べにくかったら、僕が食べてあげますよ。」


「沢井先輩ったら・・・先輩なら、ここにいる周りの人がけっこう名乗りをあげるんじゃないですか?」


「僕は高瀬の作ったやつが食べたいから。」


「まぁ・・・そこまでいってもらえるとうれしくなっちゃいますよ。」


「おまえら・・・それ以上仲良くすると、校則違反を申しわたすぞ!」


「えぇーーー!」


「ほどほどにしろよ。今は俺がここにいるから、まぁいいがな。
じゃ、悪いけど高瀬・・・甘えさせてもらっていいかな。
礼はちゃんとするから。」


「そんな、お礼なんていいですよ。」


「それはだめだ。仮にも給料もらってる俺の立場ってものがないだろ!」


「それはそうですねぇ・・・。わかりました。
そのへんは先生におまかせします。」


「やったな、高瀬、お礼は高くふっかけてやるといいぜ!」


「おい、沢井・・・おまえ・・・優しい顔してひどいやつだな。」



そして、結局、雨の日は教室で、七橋はケガが治るまで敦美たちと会食時間を過ごすことになったのだった。


1か月ほどたって、七橋の手は完治し、自然と会食時間はとらなくなった。


「高瀬、明日・・・暇あるか?」


「明日は土曜で休みですよ。」


「そうだ、弁当のお礼をしたいから、買い物に出よう。
ほしいものがあったら遠慮なくいってくれていいぞ。

ただし、あまり高額なのはふっかけないでくれよ。」


「わぁーい、うれしいです。」


「それと・・・俺と明日出かけることは誰にも言わないできてくれないか?
いろいろめんどうなことになると困るから。
買ったら、俺はすぐに家にもどるし、君ももどって・・・」


「わかってますって。私も明日の夕方は用事があるんです。」


「用があるなら、別の日にした方がいいか?」


「いえ、たずねてくるのは、上の兄なんです。
仕事で日本にもどってきて、私と夕飯を食べるだけで、そのあとまたアメリカに・・・」


「大変だな。でもわざわざ、貴重な時間を君と食事したいって・・・あれ?
もしかして・・・そのお兄さんとは血がつながっていないんだっけ?」


「はい。先生よくご存じなんですね。」


「ま、まぁ・・・家族の調書とかでな・・・(ほんとはチャットでラッキーとしてきいたなんていえないしな。)」


「だから先生と買い物行ったら、時間的にばっちりです。」


「そ、そうか・・・。(兄貴がそこまでするかな・・・はっ、俺は何を想像してるんだ!?
いけない想像するな・・・。くそぉ!)」