敦美はパソコンを前に顔を赤くしていた。

(私どうしちゃったんだろう。自分に素直に話すためって当たり前じゃない!?)


敦美は熱い紅茶を入れて、それを飲んでから寝床に入った。



ちょうど、その頃、七橋は少し落ち込んでいた。


「嫌われたかな。学校の先生やってるヤツが言うセリフじゃなかったか。
それにしても、高瀬は真面目だな。
うちにきても、玄関で物を置いたらすぐに家から出るなんて・・・。
まぁ、それが当たり前なんだけどさ。

手にケガを負ってなければ、もうちょっとあれこれきいてみたかったんだけどな。
当分、パソコンは触らずに寝よう。」



翌日、いつもと変わらない雰囲気で、七橋は出席をとっていた。

敦美はあまり不自由はないんだと安心していた。



しかし、昼休み前の美術室前でしゃがみこんでいる七橋を敦美は見かけた。


「先生、あの・・・私が拾いましょうか。」


「あ、いいよ。高瀬は昼飯に行かないと・・・食べそびれるぞ。」


「私、お弁当なんですよ。」


「えっ?寮生なのに?」


「私、お弁当を作るのは上手ではないかもしれませんけど、好きなんです。
お兄ちゃんにも作ってあげてたし、今も自分で作ってます。
だから、拾いますね。」


「わるい・・・高瀬には嘘つけないな。
まだ、手が痛くてな。
だからコンビニでおにぎりを買ってきたんだけど・・・うまく包装がとれるか不安でな。」



「それで美術準備室にいるんですね。
じゃ、私もここでお弁当を食べます。
そうしたら、手伝ってあげられるでしょう?」


「ちょ、そ、そんなことしたらマズイと思うから・・・君は教室で食べなさい。」


「じゃあ、外に出て広場で食べましょう。
そしたら、友達が来るから、みんなにお世話してもらえばいいでしょう?」


「あ、高瀬・・・そんなことは・・・わかった。
手が痛むのはひとりで隠しておかない方がいいみたいだな。」


「そうですよ。お手伝いはたくさんの人でやれば心丈夫です!」



七橋は学校の広場に出て、敦美とお弁当を食べることにした。

敦美の狙いどおり、気になった生徒たちがお弁当を持ち寄って広場に集まった。

その中に美術部副部長の沢井も入って、にぎやかな会食となった。


「いきなり先生と外で弁当持ってきて何してるのかと思ったよ。」


「先生が手が痛くて準備室で隠れてお弁当にしようとするからです。
みんなに手伝ってもらった方が便利でしょう?」


「いいアイデアだね。僕も今日は母さんが弁当を作ってくれたから、教室でひとりにならなくてよかったよ。」


「沢井先輩はお母様の手作りなんですか?」


「今日はね。母さんはふだんはお掃除会社の管理職だから早くてね、いつもは食堂行ったり、パン買ったりだけど、今日は母さんが休みをとってて作ってくれたんだ。」


「よかったですね。あはっ、かわいいタコさん。」


「母さんいつまでも小学生の弁当みたいに・・・はずかしいなぁ。
あ、タコウィンナーあげるから、高瀬の卵焼きくれない?なんかうまそうだ。」


「ああ、これは紅ショウガ入りです。きれいでしょう?
はい、どうぞ。」


「あ、僕それ、持てないや、口にいれてくれ。あーーーん!」


「はい、じゃ、あーーーーん!」


パクッ!!!


「えっ?」