通路を通ってこっちへ来る楼

横を通られた何人かの女子は

楼へ手を伸ばしそうになって慌てて引っ込めるという

明らかにバレバレながらも

理性と必死に闘っていた
その光景が可笑し過ぎて

思わず吹き出しそうになったけど

今笑ったりしたら後で何が起こる事か……

もしかしたら血祭りに遭うかもしれない

そう考えてゾッとし

頑張って表情筋を引き締めた
ガタッ

楼が椅子を引いて横に座った

それと同時に更に強くなった

羨望と嫉妬の眼差し


それに気付いているのかいないのか

楼は耳元で「よろしくね、桜ちゃん」と囁いた
『……よ、ろしく……』


耳を傾けて漸く

楼が聞こえるほどの小さな声で

私もそう返した


楼は嬉しそうにニコニコと笑った


一緒のクラスなのは嬉しいけど

これからの学校生活がちょっと心配なんだよ...
その日は休み時間の度に

楼に人がたくさん集まってきていて

時々...というか結構な頻度で

私の机の位置をずらされてイライラが募るばかりだった


授業中にも殺意のようなものをあちこちから感じるし

本当に散々な一日だ
゚*。:゚ .゚*。:゚ .゚*。:゚ .゚*。:゚ .゚*。:゚

次の日、学校へ行き

靴箱を開けてみると……


『...ぇ……』


思わず小さな声が漏れた

靴箱の中には

物がぎっちり詰められている、一つの封筒があった
あまりにも詰め込み過ぎていて

封筒の四隅に穴が開いてしまっている


そこから中身が少し覗いていて

どうやらそれは

この封筒とセットで売られている

便箋の束のようだった
教室の自分の席に着いてから

封を開けた

中の文章に目を通すと


“ 如月くんに近づかないで ”

“ 楼は渡さない ”

“ 楼君の目が腐るから楼君の前から消えて ”

“ ロウは私達の物よ ”


そんなような言葉が

様々な筆跡で何十枚も綴られていた
“ 渡さない ”って...

“ 私達の物 ”って……

人を物みたいに言わないでよ

“ 前から消えて ”って言われても

隣の席なんだからそれは不可能


そんな事を思いながら

深い溜め息を吐き

封筒ごとゴミ箱へ放り投げた


この量からして

きっと、昨日のうちに

ファンクラブでも発足されたんだろう