暫くして呼吸が正常に戻った叔父さんは
「ちゃんと連絡してくれれば少しくらい遅くとも構わない
……桜は私たちの娘同然だ
たまには我が儘を言ってもいいんだぞ
血が繋がっていても、そうでなくとも
私たちは桜を、愛しているよ」
優しく微笑んで、そう言ってくれた
『……っ...うん……』
それ以外の言葉は言えなかった
嗚咽が邪魔をして
……楼が言ったとおりだった
叔母さんと叔父さんは
私を愛していると言ってくれた
楼には、何でも分かってしまうのかな?
楼は……すごいね
そこでふと思い出した
叔母さんから一度離れると
玄関のドアを開けた
しかし門の前に楼の姿は無くて
辺りを見回しても、それらしき姿は見当たらなかった
思わずふっ、と笑みが零れた
本当にあなたは、優しい人だ
「桜ちゃん? どうかしたの?」
叔母さんに声をかけられて
「何でもない」と首を振った
それからは三人で
楽しい会話を交えながら夕飯を食べ
嬉しい気持ちが収まらないまま
深く、心地良い眠りへと落ちていった
次の日
朝起きて学校へ行く支度をし
リビングへ向かうと
「おはよう、桜ちゃん」
「おはよう」
朝食を作っていた叔母さんと
新聞を読んでいた叔父さんが
笑顔で挨拶をしてくれた
別にそれはいつもと何ら変わりない
変わったのは……私だから
『おはよう』
そう言ってにこり、と笑いかけた
私は昨日
この家に来て初めて
叔母さんたちに笑顔を見せた
だから笑顔で挨拶をしたのは
これが初めてでもある
叔母さんたちはとても嬉しそうで
離れるのが少し名残惜しかったため
叔母さんたちが気付かない程度に
いつもより遅めに家を出た
学校へ着き、教室のドアをガラッと開けた
教室にいたクラスの人達の視線が
一度こっちへ集まったが
私だと分かるとすぐに元の状態に戻った
もう慣れた光景だったけど
家で味わった幸せな時間と
無意識に比較してしまい
少し胸が痛んだ
一度幸せな時を過ごしてしまうと
もう今までの生活には満足できないだなんて
なんて贅沢な事を思うんだろう
そんな自分に少し、自己嫌悪した
私の机は一番後ろの窓側
クラスの人数が奇数のため
一人席……のはずなのだが
なぜか隣に机がもう一つ用意されていた
疑問には思ったが
その時は気にも留めなかった