私の返事に

それは嬉しそうに笑った彼


…………

そういえば


『ねぇ』


「ん?」


声をかけるとこちらを向いた彼に

私は気になっていた事を聞いてみた
『どうして私を見つけられたの?』


ここは屋上といっても

大抵の生徒が出入りする表門側ではなく

殆ど使われない裏門側


それなのに目の前の彼は

どうして私を見つける事ができたのだろう
「あぁ、まだ言っていなかったね

僕は明日からこの学校に通う事になる...

言わば〝転校生〟なんだ


今日は校長先生へ挨拶をしに来てね

表門で、皆が学校から出ようとしてる中で

一人だけその流れに逆らっていたら不自然でしょう?


それに今の時間は表門側に日が差すから

日が当たっていない裏門側から出入りしたんだ
一度間を置いてから

彼は更に続けた


「挨拶が終わって裏門から出ようとしたらね、

少しだけある日向に屋上の影が映っていたんだ

そこに人影が見えたから、

〝おかしいな〟って思って振り仰いだら、

そこに君がいた


フェンスを越えようとしているところだったから、

慌てて階段を駆け上がってここまで来たってわけ」
『……そう』


「ははっ、なんか素っ気ないね」


私の聞き終わった後の反応に

彼はそう言って苦笑した


素っ気ない、か……

感情があんまり表に出なくなってしまった

でも本当はあなたにすごく感謝してるよ


私を見つけてくれて、ありがとう
「……そういえば、

君の名前は何て言うの?」


彼のその問いに

自分がまだ名乗っていないことを思い出した


『葉月桜、桜でいい』


「よろしくね、桜ちゃん

僕も楼って呼んでくれて構わないよ」


『分かった……楼』


私が名前を呼ぶと

楼は何故か少し顔を赤らめて、はにかんだ
「...そろそろ帰ろうか」


楼の言葉に黙って小さく頷き、立ち上がった


見上げると

さっきまで真っ青だった空が

いつの間にか茜色に変わっていた


綺麗...

空なんて久し振りに見た


そう思ってから屋上の扉の中へと入った
二人で階段を降り

生徒玄関にたどり着いた時には

もう日が沈みかけていた


「これくらいなら表門でも大丈夫かな」


彼はそう言って

表門へと向かう私の横を歩いた


門から出る時

「明日からよろしくお願いします」


と小さく頭を下げていた
帰路を進む時

どちらも口を開かなかった


でもそれは重苦しい沈黙ではなく

優しく包み込まれているような

温かく、不思議な沈黙だった