私の横を通り抜ける涼しい風

今は7月中旬

日に日に暑さを増していくこの季節には

随分と心地よいもの



そう思えるのは

私の気持ちがこんなでなければ、の話だが
少しでも後ろへ下がれば

フェンスがカシャンと音を立てる

そして少しでも前へ進めば

数十メートル下にあるコンクリートに

真っ逆さまに転落する


そう、私は今……




自殺を図ろうとしている
両親は離婚して

女手一つで私を育てた母は

誰もが知っている有名会社の社長秘書を勤めていた


しかし5年前、ニュースや新聞で

“かの有名な○○社 倒産の危機!?”

とデカデカと文字が出ていた
本当なのか私には分からなかったが

相当なストレスが溜まっていたのだろう



それまで笑顔の絶えなかった母が

その面影もなくなり


全くと言っていいほどに笑わなくなった
そして母は……


私に拳を振り上げるようになった


“ あんたがいると目障りなのよ!! ”


そう何度も繰り返しながら…………
最初の頃は訳が分からなかった

家に帰る度に殴られ

涙が溢れていた


母はその雫を見ると

止めるどころか不敵に笑い

そしてなおも私を殴った

何度も……何度も……
日に日に増えていく体中の痣


その痣が増えていく度に


私の心はどんどん


感情を失っていった
最後の頃は

殴られている時の私は無表情になった

どんなに強く殴られようとも

涙は底をついたように流れなくなった


それが更に気に食わなかったのか

母は手が真っ白になるほど

強く拳を握り

私を殴るようになった
痛くないわけではなかった


だが殴られ続けているうちに

皮膚が麻痺してしまった


無表情になった頃には

日焼けをした肌のように

殴られた箇所がピリピリするだけだった